最新記事

ウクライナ 

併合1周年クリミアの惨状

外国企業は背を向け、交通サービスは止まり、反対意見は許されないロシア支配下の悲惨な生活

2015年3月31日(火)15時13分
ダン・ペレシュク

孤立 クリミアの人々はロシア「編入」1周年を祝ったが Maxim Shemetov-Reuters

 地域住民の9割が情報源と頼るロシア国営テレビによれば、この日はロシア系住民が「ファシスト」のウクライナ政府による「抑圧」から救われた英雄的な出来事を祝う日──ロシアのクリミア併合から1周年となった先週、クリミアとロシア各地で祝賀行事が催された。

 だが日々の現実は、祝賀ムードとは程遠い。クリミアは国際的な孤立を深め、地域経済は低迷し、政治的弾圧が続いている。

 もちろんウクライナ本土の状況も明るいとは言い難いが、クリミアのほうが深刻だとする声は多い。理由を挙げると......。

企業活動が消滅 国際社会でロシアへの併合を認めるのはシリアや北朝鮮などわずか数カ国で、ほかの各国はウクライナ領と捉えている。そのためビザやマスターカードはクリミアでのサービスを停止し、アップルやマクドナルドは販売を中止した。

 物不足はただでさえ深刻化するインフレに拍車を掛けている。1月にはクリミアのインフレ率は世界第2位を記録。食料など生活必需品も急騰している。

ライフラインの欠如 ウクライナ政府はクリミアへの電車、バスの運行を停止した。一時クリミアで運航していたロシアの格安航空会社は、経済制裁のあおりを受けて撤退した。

 さらにウクライナ政府は水道と電力の供給を大幅にカット。断続的な停電や農業用水不足などの問題が起こっている。

反対派の弾圧 併合以来、クリミアでは「ウクライナ政府は悪、ロシアは救世主」とのプロパガンダがまかり通り、反対意見は許されない。今月も、2人の調査報道ジャーナリストがロシアの治安当局に拘束された。

タタール人ムスリムの迫害 ムスリム少数民族のタタール人は、ウクライナ政府を支持しているためにクリミア当局から退去を命じられ、迫害や誘拐のターゲットになっている。

「英雄的」出来事と引き換えにクリミア住民が失ったものはあまりに大きい。

From GlobalPost.com特約

[2015年3月31日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏発言に国際社会が反発、「ガザ所有」なら中

ビジネス

FRB、追加利下げに傾く 関税巡り3段階の不確実性

ワールド

アルゼンチンがWHO脱退へ、「深い相違」と説明 米

ビジネス

米ISM非製造業総合指数、1月52.8に低下 需要
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギー不足を補う「ある食品」で賢い選択を
  • 3
    教職不人気で加速する「教員の学力低下」の深刻度
  • 4
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 7
    【USAID】トランプ=マスクが援助を凍結した国々のリ…
  • 8
    「僕は飛行機を遅らせた...」離陸直前に翼の部品が外…
  • 9
    AIやEVが輝く一方で、バブルや不況の影が広がる.....…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 6
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 7
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 8
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギ…
  • 9
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中