最新記事

フランス

イスラムへの憎悪を煽るパリ週刊誌銃撃事件

イスラム教を風刺した週刊誌襲撃でトクをするのは極右だけだ

2015年1月8日(木)18時16分
ウィリアム・サレタン

募る危機感 シャルリ・エブド襲撃事件の犠牲者を悼み、表現の自由を求めるパリ市民 Youssef Boudlal-Reuters

 フランスのシャルリ・エブドはあらゆる宗教を風刺してきた。イスラム教も例外ではない。特にイスラム過激派は同誌にとっては格好の笑いの種だった。

 同誌は06年にデンマークの新聞に掲載されて問題になったイスラム教の預言者ムハンマドの風刺漫画を再掲載。11年にはパロディー版シャリーア(イスラム法典)を巻頭特集にし、表紙の風刺漫画で「客員編集者」のムハンマドに「これを読んで笑い死にしなかったら、ムチ打ち100回の刑」と言わせて物議をかもした。12年には裸でポーズをとるムハンマドの風刺画を掲載。最新号の巻頭特集では、イスラム過激派に支配され、女性が抑圧される近未来のフランスを描いたミシェル・ウエルベックの小説『服従』を紹介していた。

 一部のターゲットにとっては、同誌のこうした内容は笑い事では済まされない。11年には本社ビルに火炎瓶が投げ込まれて火災が起きた。編集部にはその後も脅迫が繰り返され、公式サイトがハッカーに荒らされたこともある。

 そして7日の襲撃だ。覆面をした男たちが侵入して銃を乱射し、編集長らスタッフ10人と警官2人を射殺した。男たちは犯行時、「アッラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫び、ツイッターに「預言者のための報復」というアラビア語のハッシュタグ付きで襲撃画像をアップした。

 パリ警察は容疑者3人の身元を特定。うち2人は34歳と32歳の兄弟で、パリ生まれのアルジェリア系だという。もう1人の18歳の男は7日深夜にフランス北部の警察署に出頭した。

 彼らはイスラム教の名誉を守ると称しているが、その行為は逆効果だ。アッラーの名の下に殺人を犯せば、イスラム教徒は過激で危険だという偏見を助長することになる。穏健なイスラム教徒がいくら否定しても、風刺の現実味は増すばかりだ。

 シャルリ・エブドのターゲットはイスラム教だけではない。最新号にはキリストの存在に疑問を突きつける議論のパロディーが掲載されているが、キリスト教徒が編集部を銃撃することはない。今回の事件で死亡した編集長のステファン・シャルボニエは11年に本社が放火されたときにこう語っている。「(われわれは)多くのテーマに対して挑発的だが、イスラム過激派を扱ったときにかぎって暴力的な反応が起きる」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P500・ダウ反発、大幅安から切

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、トランプ関税発表控え神経質

ワールド

英仏・ウクライナの軍トップ、数日内に会合へ=英報道

ビジネス

米利下げ時期「物価動向次第」、関税の影響懸念=リッ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中