最新記事

外交

戦後70年を利用する中国の東アジア分断戦略

アメリカ主体の軍事・経済的安定に対抗し、荒波を立てる中国の国力をどう評価すべきか

2015年1月8日(木)16時59分
河東哲夫(元外交官、外交アナリスト)

急膨張 今年も中国が東アジア情勢のカギを握る Anventtr-iStockphoto

 今年の東アジア情勢で、日中関係は最大の動因の1つだろう。中国がGDPで日本を抜いてはや5年。急激な円安で、ドル換算で日本の倍になる勢いだ。

 とはいえ、日本経済の存在感は揺るいでいない。世界2位のODA(政府開発援助)供与額を維持し、直接投資は途上国にもろ手を挙げて歓迎されている。

 日中関係を見る際には2国間の経済分野だけでなく、地政学的に本質を捉える視点が欠かせない。日中のバランスを取り持ってきたのは、実質的に最大の「アジアの国」であるアメリカだ。08年のリーマン危機でその地位が沈むまで、東アジアは安定していた。政治方面で余計な荒波を立てずに、「現状維持」と「自由貿易」の2大原則に徹することができたのは、アメリカの経済力と軍事力があってこそだ。

 その下で日中韓やASEAN(東南アジア諸国連合)は、アメリカやEUと相互依存関係を深め繁栄してきた。また今後はTPP(環太平洋経済連携協定)も、米議会がオバマ大統領に交渉を一任する法案を通せば強力な後押しとなり、東アジアでの自由貿易体制を強化することだろう。

 この数年、「現状維持」と「自由貿易」に波風を立ててきたのが中国だ。しかし習近平(シー・チンピン)国家主席は周永康(チョウ・ヨンカン)を除去して公安部門と石油閥を握り、徐才厚(シュイ・ツァイホウ)を逮捕して軍を掌握した。習の国内基盤は堅固となり、積極的な外交に打って出る状況が整った。

今年を占う3つのヒント

 ASEANに友好姿勢をアピールする一方、日本に対しては戦後70周年を喧伝して巧妙に牽制するだろう。中国お得意の微笑外交をもってASEANやアメリカから日本を引き離し、孤立化、無力化する戦略だ。

 日中以外に今年の東アジアを占うヒントは3つ。「ロシア」「朝鮮半島」「中国内陸部」だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中