最新記事

ミャンマー

注射針が通貨として流通するヘロイン地獄

辺境州の若者の8割がヘロイン中毒という恐るべき実態

2014年10月29日(水)15時54分
パトリック・ウィン

静かな虐殺 ヘロイン蔓延を放置する政府を地元勢力は「攻撃」だと非難する Damir Sagolj-Reuters

 ミャンマー北部の中国との国境地帯は今、アジアで最もヘロインが蔓延する無法地帯になっている。清潔な注射針は需要が高いために、商店で小銭代わりに使われる程だ。しかしこうした現状は、世界からほとんど無視されている。

 軍事独裁と、政府と少数民族との紛争が長く続いたミャンマーの荒廃ぶりは、アジアの中でも群を抜いている。地元通貨の価値が低いために、商店の店員は5〜10セント相当の紙幣の代わりに、ティッシュペーパーやたばこ、キャンディーを渡す。ヘロイン中毒が多いため、中国との国境の町ミューズで街道沿いの商店で買い物をすると、お釣りに清潔な注射針をくれるほどだ。

 タイ在住のカチン族女性が作るグループは、ミャンマー北部のシャン州、カチン州のヘロイン蔓延の実態を報告書『静かな攻撃』で明らかにした。「(ここよりも)ヘロインの主な原料となるアヘンを多く生産している場所はアフガニスタンしかない」

 この報告書によると、ガソリンスタンドではボトル入りの滅菌水をお釣り代わりに客に渡す。中毒者が、滅菌水にヘロインの粉末を混ぜて注射器に入れ、体に打つからだ。

 ここでは純度の高いヘロインが安く売買され、1回分のヘロインが1ドル程度で手に入る。ミャンマー北部のジャングルでは、ゲリラ勢力が広範な地域を管理下に置いているが、現在は多くのゲリラ勢力が政府と手を組んでいる。いまやミャンマー北部のジャングルは、アジアで消費されるほとんどすべてのヘロインの生産地になっている。

 ヘロインはまるで野菜のように公然と売られている。カチン州の州都ミッチーナーでは、使用済みの注射針が街中のあちこちの地面、道路や大学の構内に捨てられている。ネットカフェでは、メールをチェックしながらヘロインを打たないように注意される始末だ。

 50万近い信者を抱える地元の有力なキリスト教団体「カチンバプテスト連盟」では、カチン州の若者の80%がドラッグ中毒だというゾッとするような見方も示している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハリコフ攻撃、緩衝地帯の設定が目的 制圧計画せずと

ワールド

中国デジタル人民元、香港の商店でも使用可能に

ワールド

香港GDP、第1四半期は2.7%増 観光やイベント

ワールド

西側諸国、イスラエルに書簡 ガザでの国際法順守求め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中