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動物中ロ関係を翻弄する「プーチンのトラ」の行方
プーチンのトラが国境を越えて中国に。トラに万一のことがあれば中国には大恥だ
己の化身? 絶滅危惧種シベリアトラの保護に情熱を注ぐプーチン Animal Press-Barcroft Media/Getty Images
中国・黒竜江省で迷子らしきシベリアトラを見掛けた際は、クレムリンにご一報を──。
国際的騒動を巻き起こしているのは、ロシアのプーチン大統領が野生に放したシベリアトラのクージャ。中ロ国境を流れるアムール川を渡って中国領内に入り込んだ。
クージャが装着している追跡装置によって黒竜江省にいることを突き止めたロシア当局は、不安に駆られている。トラの死体は中国の闇市で最高1万ドル相当の値が付く人気商品で、密猟が横行しているからだ。
野生のシベリアトラは500頭ほどしか生息していない絶滅危惧種。ワイルドなイメージで売るプーチンは、保護に情熱を燃やしている。クージャは母親を密猟者に殺された後、きょうだいと共に保護され、5月にプーチンの手で野生に返された。
中国はシベリアトラがとりわけ危機に瀕している国で、今では数十頭しかいないとされる。欧米とロシアの間で緊張が高まるなか、中ロは密接な絆を強調している。「プーチンのトラ」に万一のことが起きたら、中国にとっては大きな恥だ。
中国当局はカメラ60台以上を設置してクージャを捜索。今月中旬には、クージャのものらしき体毛やふんを発見した。その一方で、今度はクージャの姉妹のイローナが中ロ国境を越え、より人口密度が高い地域に迷い込んだ可能性が浮上している。
今回の騒動を受けて「クージャは亡命した」「プーチンの代理として中国東北部の併合に乗り出した」というジョークもささやかれている。もちろんトラに国境は存在しないし、餌を求めてアムール川越しに行き来するのもよくあることだ。
とはいえ動物が国境にこだわることもある。有名な例が東西冷戦時代を経験したアカシカだ。
このアカシカの生息地は、旧西ドイツと旧チェコスロバキアの国境地帯。冷戦当時、国境沿いには電気柵が張り巡らされていた。冷戦終結から20年以上が過ぎた今も、アカシカは柵があった場所を越えようとしない。
動物が「国民性」を身に付けることもあるらしい。研究によれば、イスラエルのアレチネズミは隣国ヨルダンの仲間よりずっと用心深い。イスラエル側では、工業型の大規模農業が行われていることが原因のようだ。
危険やカルチャーショックに見舞われる前に、クージャが故国へ戻れることを祈ろう。
© 2014, Slate
[2014年10月28日号掲載]