最新記事

サッカー

カタールW杯が出稼ぎ労働者を殺す

2022年の大会に向けた工事で死者続出の異常な実態

2014年6月16日(月)12時45分
ジェレミー・スタール

逃げ道はない ひどい労働環境と異常な暑さがカタールの出稼ぎ労働者の敵 Fadi Al-Assaad-Reuters

 サッカー・ワールドカップ(W杯)ブラジル大会を目前に控えた今、22年カタール大会について語るのは少し気が早い気もする。だがそうは言っていられない現実がある。

 米スポーツ専門チャンネルESPNは先日、ドキュメンタリー番組『E:60』で8年後に行われるカタールW杯の準備で惨劇が起きていることを明らかにした。「カタールに閉じ込められて」と題されたこのドキュメンタリーは、若い出稼ぎ労働者が小さな赤い棺桶を運んでいるシーンから始まる。リポーターがカタールを訪れ、過酷な生活環境に押し込められている労働者たちの現状を隠しカメラで取材している。

 衝撃的な数字も取り上げられた。カタールは国民数が28万人と非常に小さな国であり、インフラ工事や8〜12カ所の近代的スタジアムの建設の大半を、140万人の出稼ぎ労働者が担っている。

 番組によれば、昨年だけで184人のネパール人労働者が「突発的な心臓病」で死亡している。原因は、ひどい労働環境と異常な暑さだ。カタールのネパール大使館は、W杯のための工事で10年以降に400人の労働者が命を落としたと主張する。

 ネパール人に限ったことではない。カタールはインド、パキスタン、フィリピンなどの国々から労働者を「輸入」している。インド政府は、12年以降で500人のインド人がカタールで死亡していると発表した。

雇い主にパスポートを差し押さえられて

 このままいけば、W杯の開幕までに4000人が命を落とすだろうと、国際労働組合総連合(ITUC)のシャラン・バロウ書記長は語る。ITUCが3月に公表した報告書は、3年半前にW杯のカタール大会が決定してからこれまでに、1200人の出稼ぎ労働者が死亡したと指摘している。

 こうした搾取的な状況の背景には、現代の奴隷制度と言われる「カファラ」という労働契約制度がある。カファラでは、雇用主は出稼ぎ労働者が出国できないようパスポートを差し押さえることができる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル1年超ぶり高値、ビットコイン10

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 取引禁止

ビジネス

米国株式市場=上昇、ダウ・S&P1週間ぶり高値 エ

ワールド

米中国防相会談、米の責任で実現せず 台湾政策が要因
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中