最新記事

天安門

「自信なき大国」中国の未来

天安門事件から25年。国内では民主派や少数民族を弾圧し、国外では領海問題で周辺諸国を威嚇する──アメリカに亡命した民主活動家が語る中国の「不安感」とその行く末

2014年6月4日(水)12時16分
長岡義博(本誌記者)

不安感 習近平が弾圧を続けるのは自信のなさの裏返し? Aly Song-Reuters

 今年の6月4日で中国政府が民主化運動に参加した学生や市民を虐殺した天安門事件から25年。四半世紀前に民主化という選択肢を捨てた中国は、経済的には世界の屋台骨を担うと言われるほど発展した。ただ、少数民族や民主活動家、メディアへの締め付けは一向に改善する気配がない。最近では国力を背景に、領海と海洋権益を求めて東シナ海や南シナ海で周辺国と衝突を繰り返し、武力衝突の危険性がかつてなく高まっている。

 89年の天安門事件に広州から参加し、その後2回投獄。96年にアメリカに亡命し、現在ニューヨークで政治評論家として活動する陳破空(チェン・ポーコン)氏は独自の中国政治評論で知られ、著書では「日本は中国との戦争を恐れるべきでない」とも説いている。この膨張し続ける難解な大国とどう向き合うべきか、来日した陳氏に聞いた。

                   *

──この25年間の中国の変化についてどう考えますか。

 確かに中国は経済的に大きく発展したが、予想の範囲内です。なぜなら中国は人口が多く、土地の面積も広い。毛沢東が死に、鄧小平が貧しかった中国人を縛っていた「縄」をほどいた訳ですが、あれほど人口が多くて大きい国にたくさんの外国投資が集まれば、発展するのは当然のこと。何も奇妙なことではない。過去数千年の歴史を見れば、中国はずっと世界経済の1位を占める国でした。この25年間の発展を見ても私は少しも驚きません。

 しかし、25年前にわれわれが「反腐敗」を掲げて運動したにもかかわらず、最近の中国は前にも増してもっと腐敗しています。官僚は権力を利用して巨額の汚職を行い、そのカネを使って子供たちを海外に留学させている。彼らは安心できないのです。腐敗の拡大とともに、貧富の差も広がっています。

 1989年に私たちは「民主化」も掲げましたが、中国政治の闇はますます拡大しています。穏当な主張をしている知識人が最近、どんどん拘束されている。先日も広州で同じく民主化運動を戦った民主活動家の夫婦が天安門事件の追悼式典を開こうとして中国当局に逮捕されました。

 ウイグルでは立て続けに爆破事件が起き、チベットでは焼身自殺が続く。中国政治にまったく進歩はありません。25年前に掲げた「反腐敗」「民主化」という目標は正しかった。中国には今も民主化と反腐敗が必要です。

──最近では、弁護士の浦志強氏のような「中国ではどんな活動をすれば当局に拘束されるか」について知り抜いていた人まで逮捕されています。

 穏当な主張をする人まで逮捕しているのは、習近平(国家主席)が危険を感じているからです。胡錦濤(前主席)時代には逮捕されなかった彼らのような過激ではない人たちがなぜ逮捕されるのか。習政権にますます「安心感」がなくなっています。胡錦濤時代にも、胡錦濤より前の江沢民(元主席)時代に逮捕されなかった(ノーベル平和賞受賞者の)劉暁波たちが逮捕されています。これも胡錦濤に「安心感」がなかったから。中国政府の不安感はますます増しています。

 習近平は最近、「三つの自信(理論への自信、進む道への自信、制度への自信)」というスローガンを掲げていますが、実は1つの自信もない。だから、彼らはもっとも穏当とされる人たちさえ逮捕するのです。この4月に習近平は(国内の治安強化などのために新設した)国家安全委員会の初会合を開きましたが、彼が掲げた「11の安全」のトップは「政治の安全」です。それほど彼らには安心感がない。

──「政治の安全」という言葉はとても奇妙に聞こえます。

 彼らは「中国の特色のある国家安全の道」とも言っています(笑)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英公的部門純借り入れ、10月は174億ポンド 予想

ワールド

印財閥アダニ、会長ら起訴で新たな危機 モディ政権に

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ空軍が発表 被害状

ビジネス

アングル:中国本土株の投機買い過熱化、外国投資家も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「ワークライフバランス不要論」で炎上...若手起業家、9時〜23時勤務を当然と語り批判殺到
  • 4
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 5
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    クリミアでロシア黒海艦隊の司令官が「爆殺」、運転…
  • 8
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 9
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 10
    70代は「老いと闘う時期」、80代は「老いを受け入れ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国」...写真を発見した孫が「衝撃を受けた」理由とは?
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    建物に突き刺さり大爆発...「ロシア軍の自爆型ドロー…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶり…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中