最新記事

エネルギー

環境破壊に突き進むオーストラリア

保守派のアボット政権が暴走し地球を守る環境規制を次々に撤廃

2014年5月15日(木)16時29分
リネット・アイブ

迫りくる危機 土砂廃棄による破壊が懸念されるグレートバリアリーフのサンゴ礁 Andrew WatsonーThe Image Bank/Getty Images

 政権奪取からわずか半年で、オーストラリアのトニー・アボット首相は環境政策を「脱線」させた。環境保護派の学者たちは、口をそろえてそう言う。

 アボットの政策は世界で最もデリケートな生態系のいくつかに取り返しのつかないダメージを与えかねないと、彼らは警鐘を鳴らす。だが環境に優しい政策に戻るよう訴え掛けても、超保守派のアボットの反応はなきに等しい。

 アボット率いる自由党は、二酸化炭素の排出に課税する炭素税および鉱物資源利用税を廃止し、経済発展を阻む「環境規制の束縛」を断ち切ると公約。昨年9月に、労働党から政権を奪還した。

 オーストラリア鉱業協会のブレンダン・ピアソン会長に言わせると、両税の廃止は投資と雇用の確保が目的。同時に地域社会を支援し、税収を増やし、エネルギー価格を下げ、国際社会におけるオーストラリアの競争力を高めるためでもある。

 しかしジェームズ・クック大学で生物多様性などを教えるビル・ローランス教授は、アボット政権の環境に対する政策転換の規模とスピードに愕然としている。炭素税の廃止は「雪崩」のような問題の一部でしかないと、ローランスは言う。

原動力は目先の経済効果

 アボット政権は西部沿岸でのサメ駆除に乗り出し、貴重な国立公園での家畜放牧を解禁し、再生可能エネルギーへの投資を縮小した。そして地球温暖化の人為的要因に疑いの目を向ける実業家ディック・ウォーバートンに、電力供給に占める再生可能エネルギーの割合の見直しを委ねた。

 さらに石炭積み出し港の拡張工事で出る大量の土砂を、世界最大のサンゴ礁地帯グレートバリアリーフに捨てることを許可して物議を醸した。ユネスコ(国連教育科学文化機関)に対し、タスマニア原生林のうち7万4000ヘクタールを世界遺産登録から外してほしいと前代未聞の要請も行っている。

 あまりに広大な森林地帯が「(環境保護のために)閉鎖されている」というアボットの発言で、事実上、新しい国立公園を作ることはできなくなった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日比、防衛協力強化で合意 ハイレベル戦略的対話を確

ワールド

再送-米政権、USAIDの米職員1600人削減へ

ワールド

米企業、ロシア市場に回帰も 和平実現なら=ウィトコ

ワールド

シリア国民対話会議、25日開始
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チームが発表【最新研究】
  • 2
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映像...嬉しそうな姿に感動する人が続出
  • 3
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    見逃さないで...犬があなたを愛している「11のサイン…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 5
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    障がいで歩けない子犬が、補助具で「初めて歩く」映…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中