最新記事

中台関係

それでも台湾学生運動は統一を阻止できない

国民党の譲歩を引き出したかにみえる「ひまわり学生運動」の成果は限定的なものに過ぎない

2014年5月7日(水)15時41分
陳定定(チェン・ティンティン、マカオ大学政治学部助教)

勝者は誰か 議場から退去する前、報道陣に一礼する学生たち Pichi Chuang-Reuters

 中国とのサービス貿易協定をめぐり、台北の立法院を占拠していた台湾の学生たちが先週、立法院長の譲歩発言を受けて議場から退去した。学生たちの「ひまわり学生運動」は一定の成果を挙げ、中台統一は選択肢から外れた......ように見える。

 だがこうした見方は間違っている。むしろ今回の動きで統一のプロセスが進む公算が大きい。

 なぜか。まずひまわり学生運動の3つの課題を見ておこう。決定プロセスの透明性を欠く密室政治の改革、中台のサービス貿易協定の承認阻止、さらに台湾企業の中国進出に伴う産業の空洞化阻止──いずれの課題も達成できそうにない。

 確かに、台湾の政治システムを検証する必要があるという学生たちの訴えを人々は支持し、中台関係の今後について議論を深める機運が生まれた。しかし成果はその程度だ。

 密室政治の改革は困難だ。アメリカでさえ、政策の変更は内部関係者の協議で決まることが多い。台湾では与野党共に密室で交渉したがる。台湾の政治文化に深く根差したこの慣行を変えられるか......「ミッション・インポッシブル」だ。

 さらに、この運動が本質的に問い掛けたのは独立か統一かだ。

 貿易協定に反対している人たちの多くは、協定発効で中国が台湾に及ぼす政治的影響が強まることを警戒している。しかし、仮に学生たちの運動で発効を阻止できたとしても、中台統一に向けた動きまで阻止できるかといえば、まず無理だろう。

グローバル化は止まらず

 台湾のジレンマは、中国に頼るしか長期的な経済発展の道がないことだ。独立派の陳水扁(チェン・ショイピエン)前総統時代に対中関係が冷え込んだため、台湾経済は多くの基幹産業が韓国に追い越された。たとえ台湾がTPP(環太平洋経済連携協定)に参加できても、アメリカは台湾の輸出と投資を吸収できるほど大きな市場を提供できない。

 中国と比べて経済規模があまりに小さく、軍事力はあまりに弱い──これが台湾の悲劇だ。いずれ中国に吸収される運命だとまでは言わないが、何らかの形で中国と前向きの関係を築く必要があるのは明らかだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...スポーツ好きの48歳カメラマンが体験した尿酸値との格闘
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 5
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 6
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 7
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中