国連の限界をさらした北朝鮮「人権」報告書
ようやく北の人権侵害を告発した国連だが問題解決につながるかどうか未知数だ
なぜ今? 国連調査委員会のカービー委員長は北朝鮮の人権侵害を強く非難したが Denis Balibouse-Reuters
北朝鮮の人権侵害の実態がついに世界から「クロ」と認定された。国連人権理事会の調査委員会は先週、過酷な現状を取りまとめた報告書を発表し、372ページにわたって強制収容所や拷問の横行、公開処刑、政策が原因の飢餓などを詳細に記述。国家ぐるみの「人道に対する罪」として、大量虐殺や戦争犯罪を裁く常設法廷である国際刑事裁判所へ付託せよと国連安全保障理事会に勧告している。
当の北朝鮮は報告書の内容を全面否定し、欧米や日本が人権問題を政治利用した結果だと強く反発した。ただ北朝鮮の人権侵害は今に始まった話ではない。北朝鮮の指導者が国際法廷の場で裁かれる可能性も低い。常任理事国の中国が、ほぼ確実に反対するからだ。
今回の発表で浮き彫りになったのは、国連という組織の限界だ。確かに、国際機関として人権侵害の実態を取りまとめて世界に注意を促したことは評価すべきだろう。報告書は北朝鮮で最高指導者への忠誠度で分けた「出身成分」という階層制度が国内に差別を引き起こしているという、あまり知られていなかった事実も明らかにしている。
だが日本や韓国のように北朝鮮情報があふれる国にとって、報告書の内容はこれまでにも想像できる内容が多かった。国連が北の人権侵害を非難し始めるまでなぜこれほど時間がかかったのか、むしろ疑問に思う声のほうが多いはずだ。
北朝鮮の人権侵害が広く知られるようになったのは、自然災害で飢餓が蔓延し、脱北者が出始めた90年代末以降。彼らの告発により、指導者が豪遊する一方で、国民の一部が土や木を食べて飢えをしのぐ惨状が明るみに出た。
証言の中には信憑性を欠くものもあった。日本語に堪能で日本メディアに頻繁に登場した元北朝鮮諜報工作員の安明進(アン・ミョンジン)はその代表格だろう。安は、北朝鮮による日本人拉致被害者を平壌で目撃したと語って被害者家族に期待を抱かせた揚げ句、証言を撤回して混乱させた。