「血の弾圧」関与疑惑を韓国政府はぬぐい切れない
賃上げデモをテロ活動に仕立てた噂を否定する韓国政府への批判が広がっている
「搾取」に耐えかねて プノンペンのデモで警察に逮捕された男性 Nicolas Axelrod/Getty Images
3週間前の出来事など、なかったかのようだ。カンボジアの首都プノンペン近郊のカナディア工業団地では、いつものように衣料品工場が稼働し、海外の大手アパレルブランド向けの製品を作っている。
しかし今月3日、ここで起きた最低賃金の引き上げを求める労働者のストを、兵士が銃と鉄パイプで鎮圧。そのとき5人が死亡、数十人が負傷した。
工場は操業を再開したが、波紋はいまだ消えていない。外国政府、特に韓国政府が水面下で武力鎮圧に関わっていた疑惑が指摘されている。現地の韓国大使館がカンボジア政府の「国家テロ対策委員会(NCTC)」に働き掛けを行ったというのだ。
実際、本誌既報(1月21日号)どおり、韓国大使館は当初ウェブサイトの声明で、軍とテロ対策機関に韓国系企業の保護を求めたと認めていた(現在、声明文は削除されている)。
その後、韓国外務省は筆者らに反論文を送り、韓国の投資家のための義務を果たしたにすぎず、武力鎮圧を求めてはいないと主張。さらに日本と中国の政府も「同様の要請」をしたとされていると指摘した(取材に対し、日本大使館はコメントを拒否。中国大使館の広報担当者とは連絡がついていない)。
韓国大使館は別の声明で、韓国企業は「被害者」だと主張。また、当初の説明を軌道修正し、NCTCの文民メンバー(ほかの要職を2つ兼務している)と短時間話をしたが、正式な要請は行っていないと述べている。
労働者はテロリスト?
しかし、韓国政府の説明に納得していない人は多い。先週には、ソウル市庁舎前で在韓カンボジア人がデモを行い、韓国企業による工場労働者の「搾取」を非難。ストの武力鎮圧を厳しく批判した。
9.11テロ後にジョージ・W・ブッシュ米大統領(当時)が「対テロ戦争」を掲げて以降、世界の指導者らは敵対勢力を弾圧する口実に「テロ対策」を用いてきた。カンボジアでもNCTCがフン・セン首相の敵対者ににらみを利かせてきたようだ。