最新記事

日本政治

靖国参拝はお粗末な大誤算

2014年1月14日(火)13時40分
J・バークシャー・ミラー(米戦略国際問題研究所太平洋フォーラム研究員)

北朝鮮まで図に乗る恐れ

 危険なのは、こうした日本に対する疑念と不透明感が少しずつ広がっていることだ。その意味では、米政府の声明は「失望」や「地域の緊張を悪化させる」という表現ではなく、「アメリカは遺憾に思い、地域の和解を求める」とするべきだった。

 そんな生ぬるい表現では、靖国参拝という安倍の挑発的な行動を「おとがめなし」にしてやるようなものだという批判もあるだろう。その指摘には一理ある。しかし現在の東アジアにはもっと重要な問題がある。

 CFRのスミスは、「安倍は中曽根(康弘)や小泉(純一郎)ら(靖国に参拝した歴代の首相)とは異なる課題に直面している」と指摘する。「領土問題、歴史と軍事力をめぐる微妙な問題、そして経済力の劇的な変化が合わさって、東アジアにはきな臭い雰囲気が漂っている。現在の日本は、安倍の前任者たちの時代よりもずっと大きな戦略的リスクを抱えており、ずっと複雑な状況にある」

 安倍が靖国参拝を控えるべきだったのは、まさにこうした状況があるからだ。しかし参拝してしまった以上、アメリカとしてはそれを厳しくとがめることでこの地域の分断を刺激しないことが重要だ。

 既にアメリカは、安倍の参拝が「地域の緊張を悪化させる」と述べたことで、この1年東シナ海で挑発的な行動を繰り返してきた中国を援護してしまった。もちろん米政府にはそんなつもりはない。日本もアメリカも、歴史問題を戦略的同盟と結び付けて考えていない。

 だが今や中国も韓国も、日本とアメリカの間にはっきりとした亀裂を見いだしており、それを利用して、これまでの日本外しを肯定しようとするだろう。とりわけ中国は、昨年11月に東シナ海に防空識別圏(ADIZ)を設定した自らの判断が正しかったという気になっている。

 韓国政府も、安倍との対話をかたくなに避けてきた政策にお墨付きを得た気になっている。中韓だけではない。北朝鮮も、安倍の靖国参拝で日米韓3カ国の足並みに乱れが生じたと考え、これまで以上に大胆な挑発行為(例えば4回目の核実験)に乗り出すかもしれない。

 いずれも東アジアにとって、幸先のいい新年のスタートとはいえない。こうした状況をつくり出した責任の多くは安倍にある。米政府の過剰反応が、この地域の不安定感と疑念を高めてきたのもまた事実だが。

[2014年1月14日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

1月完全失業率は2.5%で横ばい、有効求人倍率1.

ワールド

ゼレンスキー氏「米国の支援に期待」、戦争終結へ協調

ワールド

トランプ氏の役割は戦争終結に「決定的」、ウクライナ

ビジネス

訂正TSMC、米に1000億ドル投資 トランプ大統
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Diaries』論争に欠けている「本当の問題」
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 5
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 6
    バンス副大統領の『ヒルビリー・エレジー』が禁書に…
  • 7
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 8
    米ウクライナ首脳会談「決裂」...米国内の反応 「ト…
  • 9
    世界最低の韓国の出生率が、過去9年間で初めて「上昇…
  • 10
    生地越しにバストトップがあらわ、股間に銃...マドン…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 7
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 8
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 9
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 10
    日本の大学「中国人急増」の、日本人が知らない深刻…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 5
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 6
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 7
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中