最新記事

分析

共産党にくすぶる冷戦願望

反米映像のネット流出で中国の被害妄想が露呈。開放政策を続ければソ連の二の舞いと警告するが

2013年12月3日(火)17時34分
J・マイケル・コール(ジャーナリスト)

親米から転換 アメリカとの交流が中国をむしばむと警告 Istockphoto

 中国共産党はこのところ欧米、特にアメリカを繰り返し批判してきた。冷戦的思考に縛られて米中関係を損ない、アジアにおける安全保障を弱体化させている、と。しかし先日ネットに流出した中国側のプロパガンダ映像によれば、実は冷戦こそ党にとって必要で欧米との接触は毒薬に等しいと考えているらしい。

 少なくとも党内の保守派はある程度同じ考えのようだ。党はこのところ欧米の価値観や文化が中国社会に及ぼす悪影響について警告し、対抗措置として規制を強化している。

 問題の映像『較量無声(声なき戦い)』は中国国防大学や人民解放軍総参謀部、中国社会科学院などが共同制作したドキュメンタリー。制作責任者には国防大学の劉亜洲(リウ・ヤーチョウ)政治委員(党の「八大元老」の1人だった李先念(リー・シエンニエン、元国家主席の娘婿)や王喜斌(ワン・シーピン)校長らが名を連ねている。

 興味深いのは劉が10年に人民解放軍のシステムをアメリカ式に改革しなければソ連の二の舞いになると発言し、軍における改革派と目されていたことだ。それが昨年7月に空軍上将に昇進した途端にこの変わりようでは、軍に改革派が存在するのか、存在するとしてもどの程度影響力があって長続きするのか怪しいものだ。

 映像は米シンクタンクから電子音楽や高級ブランドまで欧米的なものをやり玉に挙げ、中国社会を「洗脳」し中国を内部から破壊する陰謀だと非難。「アメリカのエリートは中国を解体するには、緊密な協力関係を通じて徐々にアメリカ主導の国際的・政治的体制の中に取り込むのが一番だと信じ切っている」という劉の発言を紹介している。

 非難の矛先は香港のイギリスとアメリカの総領事館にも向けられている。映像によれば総領事館の「桁外れ」の規模は中国の内部に浸透し内側から揺さぶるためで、毎年6月に行われる天安門事件の犠牲者追悼集会など大規模な集会の背後にも姿が見え隠れするという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、12月速報値は改善 物価

ワールド

米中が閣僚級電話会談、貿易・経済関係の発展促進で合

ワールド

NYタイムズ、パープレキシティAIを提訴 無断コピ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 3
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...ジャスティン・ビーバー、ゴルフ場での「問題行為」が物議
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中