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中東エジプトを「買収」?カタールの真意
「民主化」の後遺症に苦しむアラブ諸国に天然ガスマネーのバラまきで影響力を拡大中だが
首都ドーハで開かれたアラブ連盟首脳会議に出席するハマド首長(3月) Louafi Larbi-Reuters
エジプトでは2011年に約30年間続いた長期独裁政権が崩壊し、昨年イスラム原理主義系の新政権が誕生した。しかしその後も政治的混乱は続き、財政難が深刻化している。そんなエジプトに年間10億ドルを超える支援をしているのがアメリカだ。3月にはケリー米国務長官が2億5000万ドルの追加支援を発表した。
ところがそのアメリカをはるかに上回る太っ腹な国がある。ペルシャ湾岸の小さな首長国、カタールだ。人口は200万人足らずだが天然ガスの埋蔵量は世界第3位。新生エジプトに対する支援は既に総額50億ドルに達しており、今後5年間でさらに180億ドルの投資を計画している。その上先週、景気テコ入れのため30億ドル分のエジプト国債を購入すると発表した。
この突然の巨額援助に多くのエジプト人が衝撃を受けた。「これでカタールはエジプトを併合したも同然だ」と皮肉るツイートもあった。
米ワシントン中近東政策研究所のサイモン・ヘンダーソンによれば、カタールのエジプトに対する援助額はアメリカとは「桁違い」だ。しかも「カタールのやり方はアメリカとは異質だ。アメリカは物分かりが悪いがカタールは物分かりがいい、という印象を与えている」とヘンダーソンは言う。「カタールはカネで影響力を買っている。分からないのは見返りに何を求めているかだ」
カタールはイギリスやフランスをはじめ、世界中に投資しているが、過去2年間は「アラブの春」後の混乱に乗じて中東での影響力を拡大。その真の狙いをいぶかる声が上がっている。
リビアやシリアでは反政府勢力を支援し、チュニジアでも財政難に苦しむ新政権を援助してきた。07年以降イスラム原理主義組織ハマスが実効支配しているパレスチナ自治区のガザ地区にも、巨額の復興資金をつぎ込んでいる。
国内外から反発の声も
国外のイスラム主義勢力を支援しているという批判もある。エジプトのモルシ大統領の支持母体であるムスリム同胞団もその1つだ。イデオロギー的な動機もあるだろうが、カタールのハマド政権としては国内のイスラム主義勢力を懐柔したいという思惑もあるのではないかと、ヘンダーソンはみている。
しかし最大の関心事は影響力の獲得らしい。となればアラブの大国エジプトに目を付けるのは当然だ。「カタールはエジプトの難局を自国の地位向上に利用している。アラブ政治の舞台で端役から主役級に、あわよくば主役にのし上がろうとしている」とヘンダーソンは言う。
昨年6月にエジプト初の民主的選挙でモルシが大統領に選ばれたことで、カタールはエジプトをいい投資先と考えているのかもしれないと、英王立統合軍事研究所(RUSI)のマイケル・スティーブンズは言う。しかしエジプトの政治情勢(と経済)の悪化に伴い、カタール国内では反発も起きている。
「巨額のカネをつぎ込んでもエジプトの問題は解決できない」と、スティーブンズは言う。「エジプトなんか放っておけというのがカタールの世論。それでハマド政権の政策が大きく変わるわけではないだろうが、立場は苦しくなるはずだ」
一方、エジプトの反モルシ派はカタールの支援に憤っている。エジプトへの関与を深めるカタールに、長年アラブで資金援助の大盤振る舞いをしてきたアメリカやサウジアラビアも懐疑的な目を向けるだろうと、米国防大学のポール・サリバン教授は言う。「みんなカタールの真意を測りかねている」
[2013年4月23日号掲載]