シリアで始まった対メディア戦争
反政府勢力が報道規制を強い、ジャーナリストの犠牲も増えるなか、バランスの取れた記事はますます減っていく
戦いの果て 北東部の都市デリゾーリの通りでソファに座るFSAの兵士 Khalil Ashawi-Reuters
空爆に砲撃、狙撃に拉致。シリア内戦を取材する記者には、厄介なことが付きまとう。加えて、トルコ国境地帯を支配する反政府勢力の自由シリア軍(FSA)は外国人記者に、自分たちの指定する通訳や運転手を使うよう求めるようになった。
FSA側によれば、この措置はジャーナリストの安全を確保するとともに、「戦争観光客」を排除するためだ。このところ好奇心からシリアに入国する外国人が増えたと伝えられている。
「3週間前にやって来た男は、自分で『観光客だ』と言っていた」と、国境地帯にあるFSAの報道本部を指揮するマフムード・マフムードは言う。「彼はアレッポに行きたがっていたが、われわれは止めた。さもないと拉致か狙撃に遭ったかもしれない」。FSA側はこの措置で、経験の浅いフリーランス記者の入国を阻止できるとも説明する。
だが本当の目的は、資金調達と報道規制だと疑う記者もいる。シリアで何度も取材してきたアメリカ人記者は最近、FSA側の指名した通訳を同行させることを条件に入国を許された。後に彼はシリア人運転手から、通訳は記者の行動を見張るよう命令されていたと教えられた。
シリア北部の住民は、この地域を支配するFSAへの批判を強めている。2年以上続くこの内戦を取材してきた記者たちは、反政府側が批判的な報道をさせないようにしたり、記事の内容に注文を付けてくることが増えたと言う。
記者たちが恐れるのは、FSAの通訳に見張られたり取材対象が指定されることで、彼らに都合のいい記事を書く羽目になることだ。FSAの運転手や通訳の前では、住民も本音を口にしにくい。「新方針の目的が記者の保護だというのは信じ難い。第1にカネ、次が報道規制だろう」と、ヨーロッパ出身のカメラマンは語った。
記者は戦場で行動を共にする人間と強い信頼関係で結ばれることが多い。ところがギリシャ人記者のA・ディミトリウが言うように、シリアでは「信頼できない見知らぬ人間と仕事をしなくてはならない」。
シリア取材の危険度は増すばかりだ。アルカイダ系の「アルヌスラ戦線」のような過激な武装勢力が台頭し、拉致を狙う犯罪グループも増えている。
一枚岩でない反政府勢力と政府側の熾烈な戦いの中に、ジャーナリストの安全地帯などあるはずがない。これまで十数人の記者が行方不明になっている。ワシントン・ポスト紙に記事を送っていたオースティン・タイスは政府軍に拘束されているといわれ、ニュースサイトのグローバル・ポストのジェームズ・フォーリーは、昨年11月にシリア北部で拉致された。