最新記事

ローマ法王

新ローマ法王フランシスコ1世の素顔

アルゼンチン出身のホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿は質素倹約がモットーで、貧困撲滅に取り組んできた

2013年3月14日(木)18時42分
タリア・ラルフ

カトリックの顔 バチカンのサンピエトロ大聖堂のバルコニーに立つ新法王フランシスコ1世 Dylan Martinez-Reuters

 アルゼンチン出身のホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿(76)が、第266代ローマ法王(教皇)に選ばれた。法王としてはフランシスコ1世を名乗り、全世界12億人のカトリック信者のトップに就く。中南米出身の法王は史上初で、イエズス会からの法王選出も初のことだ。
 
 ベルゴリオはブエノスアイレスの大司教であり、76年間のほとんどを故国で暮らしてきた。保守的なアルゼンチンの教会を近代化したと、カナダのグローブ・アンド・メール紙は報じている。2月末に退位したベネディクト16世が新法王に選ばれれた05年のコンクラーベ(法王選挙)では、ベルゴリオの得票数は2番目に多かったという。ただし今回のコンクラーベでは最年長の候補者であり、最有力ではなかった。

 ベルゴリオはイタリア移民である鉄道員を父に持ち、大学で化学を学んだ後、イエズス会に入り神学や哲学を学んだ。文学や心理学をブエノスアイレスのさまざまな施設で教えた後、1969年12月に聖職者となった。

 ワシントンポストによれば、新法王は非常に質素な人物だ。ブエノスアイレスではカトリック教会が用意する邸宅の代わりに、小さなマンションに暮らす。交通手段は運転手付きの車でなく公共のバスや地下鉄を使い、食事も自分で作るという。

「彼の服装はまったく枢機卿らしくない」と、ベルゴリオの親しい友人で、英国国教会の南米大陸南部のトップを務めるグレゴリー・ジェームズ・ベナブルズは05年に米ヒューストン・クロニクル紙に語っている。「みすぼらしくはない。それが彼の個性だ。彼はとても、とても、とてもつつましい」

「汚い戦争」に加担したとの批判も

 ベルゴリオはこれまで貧困撲滅に熱心に取り組んできた。彼は「良心の声」であり、「グローバリゼーションが世界の貧困層に強いる犠牲を象徴する存在だった」と米ナショナル・カトリック・リポーターは述べている。

 01年に枢機卿に任命されたときは、「任命を祝うためにローマに行くことはない、代わりに飛行機代分のお金を貧しい人々にあげてほしいと、何百ものアルゼンチンの人々を説得した」という。

 ただし、かつてはこんな批判も存在した。11年のガーディアン紙の論説記事は、3万人ともいわれる犠牲者を出したアルゼンチンの「汚い戦争」(70年代前半〜80年代後半の軍事政権による市民弾圧)に、同国の教会が加担したことを非難した。


 教会の最も恥ずべきことは、こうした状況にもかかわらず、ヨハネ・パウロ2世の後継者を選ぶ選挙でベルゴリオの名前が上がっていることだ。アメリカ大陸から初めて選ばれた法王が殺人や間違った投獄の共犯者だということが明らかになれば、どんなスキャンダルになるだろう。


 アルゼンチンでは10年に同性婚が合法化されている。しかしベルゴリオはこれに断固反対し、「神の計画に対する破壊的攻撃」だとした。一方、避妊については
進歩的な考えを持っており、性感染症の蔓延を防ぐためには避妊具も容認できるものだと語っている。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中