公共交通の切り札は自転車
車に積んで自転車を移動
だがビクシーの場合、駐輪場は組み立て式で容易に設置できる上、必要な電気は太陽光発電で賄っていた。クラインは周辺地域を巻き込んだ自転車シェアリング事業の立ち上げに向け、就任して間もないワシントンのエイドリアン・フェンティ市長をはじめ、各方面との話し合いを始めた。
そして10年、新たな自転車シェアリング事業「キャピタル・バイクシェア」がスタートした。ワシントンとバージニア州にまたがるエリアをカバー。現在では約1700台の自転車と駐輪場200カ所近くを擁し、1日の延べ利用者数は8000人に達する。
ワシントンの自転車シェアリング事業が規模の点でも利用者数でも全米一になったのにはいくつか理由がある。まず自転車を日常的に使っている人が比較的多く、自転車の利用拡大を訴える人々の活動も活発だったこと。若い世代の住民や観光客が多かったことも大きい。
クラインに言わせれば、ワシントンが特別区で、州からとやかく言われることがないのも幸いした(彼によれば、横やりは主に連邦政府から入る)。
では肝心の使い勝手はどうなのか。12月のある朝、私は実際にキャピタル・バイクシェアを利用してみた。ワシントンのユニオン駅で電車を降り、スマートフォンの専用アプリで検索したところ、駅から1ブロック離れた駐輪場に十分な数の自転車があると確認できた。駅前に駐輪場があればもっとよかったが、大した距離ではなかったし、支払いの手続きも簡単で、ものの数分で私は駐輪場にたどり着き、自転車に乗ることができた。
皮肉なことに、自転車シェアリング事業で最も重要な役割を果たしているのは自動車の運転手だ。「車の運転を担当する従業員が一番多い」と、キャピタル・バイクシェアのゼネラルマネジャー、エリック・ギリランドは語る。
というのも個々の利用者の移動に任せていては効率的に自転車を配置できないため、キャピタル・バイクシェアではトラックに積んでこまめに自転車を移動させる。朝には通勤客の乗ってきた自転車を受け入れるため、ワシントン中心部の駐輪場を空にする。自転車はその後、いったん郊外へと戻されるが、午後には帰宅ラッシュに備えて中心部に再び運ばれる。