最新記事
対テロ戦争冷酷国家アルジェリアの本当の怖さとは
アフリカ最大の軍事力と広大なスパイ網を武器に サハラ砂漠で暴れだしたイスラム勢力に挑む
厳戒態勢 人質事件が発生した天然ガス関連施設に近いアルジェリア軍の検問所 Louafi Larbi-Reuters
アルジェリア東部イナメナス近くの天然ガス関連施設で起きた人質事件。08年のムンバイ同時テロ以来最悪のテロ攻撃であり、アルジェリアは世界の「イスラム聖戦」の中心地となった。
旧態依然たる警察国家であるアルジェリアは、アフリカあるいはアラブのどの国の政府よりも容赦なく、かつ効率的にテロリストと戦うことで定評がある。
中東・アフリカ地域で最大の国土を持つこの国の政権を10年以上握っているのは、内戦を終結に導いたブーテフリカ大統領だ。91年の総選挙でイスラム主義政党が勝利したのを受けてクーデターが勃発。激しい内戦へと拡大し、02年の終結までに16万人以上が犠牲になった。
94年にはアルジェリア人テロリストがパリ行きの旅客機をハイジャックする事件も起きたが、ブーテフリカは犯行グループと同じイスラム原理主義勢力に恩赦を与え、安定した国づくりに乗り出し、いま3期目になる。
だが周辺のチュニジアやリビアなどと同様、アルジェリアも若年層という時限爆弾を抱えている。3500万人の人口の70%を占める30歳未満の失業は深刻だ。彼らは「アラブの春」で民主化に目覚めた世代で、特に15歳未満の少年たちには90年代の悪夢の記憶さえない。
いざとなれば出てくるのは、ブーテフリカではなくこの国の実権を握る軍部だ。「ル・プボワール」(フランス語で権力の意)と呼ばれる陰の実力者たちが存在する。
秘密警察を率いるモハメッド・(トゥフィク)・メディエンヌは、旧ソ連のKGB(国家保安委員会)で鍛えられ、90年から情報機関を取り仕切ってきた。誰の指図も受けないため、「アルジェの神」と恐れられている。
アルジェリアの軍事力はアフリカ最大。15万人を超える兵力に年100億ドルの国防費、サハラ砂漠一帯には広大な諜報活動網を築いている。
フランスからの独立戦争では100万人以上の命が失われており、国民の愛国心が強い。旧宗主国の動きには今も敏感だ。一昨年のフランスとNATOによるリビア介入には反対。リビアが崩壊したために、アルジェリアの隣国マリが現在のような混迷に陥ったと非難している。
マリ情勢も無視できない
ただし今年から始まったフランスによるマリ軍事介入には妥協も見せた。マリ国内の「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ組織(AQIM)」の拠点空爆に向かう仏軍機のために、アルジェリア領空を通過することを許可したのだ。
だが皮肉なことに、その空爆がイナメナス人質事件を招いたとも言われる。アルジェリア軍部は当初、仏軍によるマリ介入に批判的だった。マリを追い出されたAQIMが北上してアルジェリアに舞い戻る可能性を懸念したからだ。
人質事件が起きた今、もはやアルジェリアがマリ情勢を傍観するという選択肢はなくなった。GDP2600億ドル、ロシア製兵器を装備した強力な軍隊、サハラに目を光らせてきた諜報機関──アルジェリアはアフリカ諸国の中で最もAQIMに対抗できる立場にある。
一方、米アルジェリア関係は複雑な歴史を歩んできた。アメリカは19世紀、アルジェリアで海賊征伐に貢献。第二次大戦では米軍がフランスのビシー政権とナチスからアルジェリアを解放。ケネディ政権は仏政府に植民地解放の圧力をかけた。
しかし冷戦時代のアルジェリアはおおむねソ連寄りだった。91年以降はアメリカと協力関係を結ぶようになったが、両国間には常に緊張と疑念が付いて回る。決して甘い関係にはなれそうにない。
[2013年2月 5日号掲載]