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中東シリア空爆に込めたイスラエルの計算
イスラエルは、空爆すればシリアのアサドだけでなく、ヒズボラやイランからも報復攻撃を受けかねないと知っていた
不安定な時代へ イスラエルの北部国境地帯ではミサイル迎撃システム「アイアンドーム」が反撃に備えている Baz Ratner-Reuters
内戦中のシリアから武器が流出して、レバノンのイスラム教シーア派武装組織ヒズボラに渡るかもしれない。それを阻むために空爆を行ったら、どんな影響があるか。イスラエル当局はここ数カ月、その点を熟考していた。
結論は、空爆に踏み切ればシリアからもヒズボラからも、あるいはイランからも報復を受けかねないというものだった。だがこの件に詳しい元当局者によれば、当局は報復がすぐに行われる可能性は薄いと考えていた。
先週、イスラエル軍機がシリア領内で兵器輸送車列を攻撃した後の展開は、この予測どおりだったようだ。
シリアは領空侵犯に抗議し、イランは「イスラエルに深刻な結果」を招くと脅したが、当面の反応はそこまでだった。専門家らによると、イランもヒズボラもイスラエルとの対立を強めたくない。シリアのアサド大統領は生き残りに懸命で、イスラエルに構っている暇はない。
「ヒズボラは何か行動を起こすべきか、これまでどおりシリアから武器を入手し続けるべきか、はかりに掛けている」と、イスラエル国家安全保障研究所のヨラム・シュバイツァーは言う。「当面は国境地域で、イスラエルに対抗するための武装強化に専念するのではないか」
空爆についてイスラエルは沈黙を守っている。イスラエル機がダマスカス近郊の「科学研究施設」を狙ったとシリア側は言うが、証拠は見当たらない。
前出の元当局者によれば、標的はロシア製の地対空ミサイルSA17だった可能性がある。このミサイルがあると、イスラエル機はレバノン上空を飛び回りにくくなる。
シリアが持つ大量の生物・化学兵器がヒズボラに渡ることを心配して攻撃した可能性もある。シリア情勢が深刻化するとともに、イスラエルはこの問題に懸念を表明してきた。しかしバルイラン大学ベギン・サダト戦略研究センターのダニー・ショーハムは、生物・化学兵器を攻撃していれば、その事実が明るみに出ているはずだと言う。化学兵器の材料を運ぶ輸送車を攻撃すれば、「その地域が汚染されている可能性が高い」。
イスラエルはここ数週間、シリアやレバノンに攻撃された場合への備えを進めていた。ミサイル迎撃システム「アイアンドーム」2基を北部国境方面に移動させ、市民には新しいガスマスクを用意するよう呼び掛けた。
シリアの反政府派にはイスラム過激派勢力が多く含まれているため、イスラエルはシリアの体制崩壊を恐れている。かつてバラク国防相の首席補佐官を務めたミハエル・ヘルツォクによれば、国境地帯がさらに不安定になることは避けられない。
「アサド政権が倒れたら国境地帯で治安悪化が進むと、イスラエル情報当局は考えている」と、ヘルツォクはワシントン中近東政策研究所の報告書に書いた。「国境付近にイスラム過激派グループが増え、武器弾薬をため込んでいるとみられるためだ」
彼らはアサド政権の崩壊後、イデオロギー的な憎悪からイスラエルを攻撃する可能性がある。さらにイスラエル軍も、アサド陣営が最終的な越境作戦を仕掛けてくるというシナリオを排除していない。
ヘルツォクが言うように「新たな不安定な時代」がイスラエルを待っていることは確かだ。
[2013年2月12日号掲載]