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アジア覇権南シナ海問題で米中が散らす火花
オバマのアジア太平洋優先政策を警戒する中国は影響力の拡大を目指す
腹の探り合い 東アジアサミットの席上、温家宝もオバマも協力関係の強化を誓ったが Jason Reed-Reuters
中国共産党の最高指導者に選出された習近平(シー・チンピン)は就任早々、最も喫緊の外交課題に直面した。オバマ米大統領のアジア太平洋優先戦略にどう対抗するかだ。中国側からすれば、オバマのアジア外交は中国の影響力拡大を防ぐ封じ込め戦略に見える。
先週、オバマはタイ、ミャンマー(ビルマ)、カンボジアを歴訪。カンボジアの首都プノンペンではASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国の首脳らと会談し、東アジアサミットに出席するなどアジア重視が口先ではないことを印象付けた。
これにいら立ったのは中国だ。アメリカは日本やフィリピンなど同盟国との絆を固めつつ、中国の影響下にあるミャンマーやカンボジアを味方に引き込もうとしている──中国国内ではそんな声が高まっている。「わが隣人たちはアメリカ側に寝返ったりしない」と、外交政策アナリストの王嵎生(ワン・ユイション)は息巻く。
中国の温家宝(ウェン・チアパオ)首相も東アジアサミット出席のためプノンペンを訪れ、ASEAN加盟国首脳と会合を持った。米中の綱引きが表面化したのはASEAN首脳会議の場だ。フィリピンとベトナムは中国と領有権をめぐり対立している南シナ海問題で、紛争を防ぐために法的拘束力を持つ「行動規範」の策定を求めていた。だが、領有権問題は2国間交渉で解決したいという中国の意向を受け、ASEAN首脳会議は行動規範交渉を棚上げにした。フィリピンのアキノ大統領はこれに猛反発。「断っておくが、われわれは納得していない」と怒りをぶちまけた。
中国は、膨大なエネルギー・漁業資源があり、海上交通の要衝でもある南シナ海のほぼ全域について領海権を主張。加えて東シナ海の島々の領有権も主張し、この1年ほどはとみに強硬姿勢を強めている。フィリピン、ベトナム、日本に対し小規模の実力行使も辞さないほどだ。
米中摩擦の背景には中国の急激な台頭がある。経済、外交、さらには軍事的な展開でも、米中の力関係は変化しつつあり、習新政権は大きな問いを突き付けられることになる。国際社会で急拡大する自国の影響力をどの程度行使するかという問いだ。
70年代末に市場経済を導入した鄧小平(トン・シアオピン)が打ち出したのは「韜光養晦」(能力を隠して機が熟すのを待つ)路線だった。80〜90年代に中国が国際社会で居丈高にならなかったのはこの精神のおかげだ。外務官僚の楽玉成(ロー・ユイチョン)も今春、この伝統を踏まえてナショナリズムの高まりにこうクギを刺した。「中国は不均衡を抱えた成長途中の国だ。国際社会でより大きな責任を果たすことにやぶさかではないが、まだその能力はない」
そうは言っても、今の世論の風向きでは、習近平はたとえ「韜光養晦」を継承したくても継承できそうにない。中国国内では、これだけ国力が付いたのだから大いに国威発揚すべきだ、という勇ましい掛け声が高まる一方だ。「アメリカは世界における(自国の)地位低下を認めたくない」と、王嵎生は言う。
習新政権にとっては内政課題も待ったなしだが、ナショナリズムの高まりとそれが外交に及ぼす影響も頭の痛いところだ。
[2012年12月 5日号掲載]