最新記事

東南アジア

マレーシアとインドネシアのメイド戦争

マレーシアに張り出された「インドネシア人メイド大売り出し!」のチラシでインドネシアの積年の恨みが炎上

2012年11月6日(火)17時39分
パトリック・ウィン

売り物? マレーシアに出稼ぎに来たインドネシア人家政婦 Zainal Abd Halim-Reuters

 東南アジアの経済力格差を考えれば、インドネシア女性がマレーシアに出稼ぎに向かうのは自然なことだ。1万以上の島々に2億人の国民が暮らすインドネシアは、10人に1人以上が貧困状態にある途上国。一方、マレーシアはアジア経済をけん引する国の1つで、住み込み家政婦を雇う経済的余裕のある上流家庭も多い。

 だが、裕福なマレーシア人家庭に住み込んで料理や掃除、子供の世話などを担うインドネシア人女性が雇用主から虐待を受けるケースは少なくない。虐待によってメイドが命を落とす事件まで発生し、インドネシア世論の怒りが頂点に達した09年6月、インドネシア政府はマレーシアへのメイド派遣を凍結した。

 これに対し、マレーシア当局はメイド不足に不満を募らせる富裕層の圧力に押されて待遇改善に尽力。4カ月ほど前にようやくメイドの派遣が再開されたのだが、1枚の品のないチラシをきっかけにインドネシア国民の間に再びマレーシアへの怒りが渦巻いている。

 首都クアラルンプールの街路樹に張られた問題のチラシには、「インドネシア人メイド、大売り出し! 家事や料理の手間がなくなります!」といった露骨な言葉が並んでいる。活動家のアニス・ハディヤがツイッターでこのチラシを紹介すると、インドネシア人を「商品」扱いすることへの批判が一気に広がった。

チラシ作製が「安全保障」を脅かした罪に?

 インドネシアの世論がメイド虐待問題に神経をとがらせているタイミングを考えれば、確かにあまりに攻撃的で、恥ずべき内容だ。

 インドネシア国内の反マレーシア感情は、異様なレベルにまでエスカレートしている。インドネシア政府にはメイド派遣の再凍結を求める脅しが殺到。インドネシア人出稼ぎ労働者を斡旋する会社の社長は、マレーシアへのメイド派遣を「永久的に」停止すると発言している。

 一方、マレーシア政府もこの問題に過剰反応を示している。社会の不安定化を恐れる当局は、チラシをデザインした女性を2週間に渡って取り調べ、マレーシアの「国家安全保障」を脅かした罪に当たるかどうか調査しているという。女性が身柄を拘留されているか確認するため、記者はチラシに記載された3つの電話番号に連絡したが、応答はなかった。

 それにしても、この女性の行為のどこに法的な問題があるのか。ホッチキスでチラシを木に貼りつけたこと? こんな1枚の紙切れに、マレーシアの安全保障を脅かす力があるとは思えないのだが。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾行政院、米相互関税は「不合理」 貿易黒字は対中

ビジネス

午後3時のドルは146円台へ急落、半年ぶり大幅安 

ビジネス

ジェトロ、関税の相談3日午前に20件超 コストの負

ビジネス

三菱商、今年度1兆円の自社株買い 28年3月期まで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 8
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 9
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 9
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中