最新記事

東アジア

初の空母に込めた中国の見栄

ソ連製空母を改修した「遼寧」は時代遅れだが、新たな影響力を誇示し愛国心を駆り立てるには十分だ

2012年11月1日(木)14時50分
ダンカン・ヒューイット(上海)

ステータスシンボル 空母保有は大国のしるし(大連港の「遼寧」) Reuters

 先週、中国北部遼寧省の大連港で中国初の空母「遼寧」の就役式典が行われた。人民服に身を包んだ胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席が海軍儀仗兵を閲兵する光景は、中国海軍の新時代の幕開けというより50年代の中ソ関係黄金期を思わせた。遼寧の艦長のコメントもどこか時代遅れだった。「胡国家主席から軍旗を渡され、神聖なる誇りで胸がいっぱいになった」
 
 中国にとって空母を所有することは長年の夢だった。遼寧の正体はソ連末期に設計され、ソ連崩壊後はウクライナ政府の所有となっていたものを98年にマカオの企業が買い取り、その後中国に渡ったワリャークだ。6万7500トン級の空母といえばアメリカのエンタープライズ級、ニミッツ級空母に次ぐ規模。大連港で全面改修された遼寧は船体以外「すべて中国が開発・生産した」と、軍高官は中国共産党機関紙の人民日報に語った。

 とはいえスマート爆弾や無人機の時代に、巨大で動きの遅い空母を重視すること自体が時代遅れ、との見方もある。中国の有人月面着陸計画が50〜60年代のアメリカやソ連の二番煎じと批判されているのと同じだ。

 しかしそれが中国の狙いかもしれない。中国もついに国連安保理の他の常任理事国並みの空母保有国になったと、国内の報道は力説している。一部の専門家によれば、空母保有は中年男が高級スポーツカーを乗り回したがるのと同じで一種のステータスシンボル。中国にとって近隣国と領有権を争う東シナ海や南シナ海で軍事力を誇示できることも重要だが、東アジア初の空母保有は(有人月面着陸と同様に)世界の大国になったという何よりのアピールだ。

 このメッセージは国際社会だけでなく中国国民にも向けられている。人民日報系の環球時報は、そうした躍進は中国が「長年いじめられた」末に「正常な発展と国威を回復する」のに役立つとし、遼寧を「中国の影響力構築の節目」と呼んだ。「中国人民の心理的な節目にもなることを願う。中国人はそろそろ劣等感と決別するべきだ」

 中国はほかにも独自設計による新空母を建設中と報じられている。温家宝(ウエン・チアパオ)首相が就役式典で政府を代表して読み上げた祝電によれば、遼寧は「愛国心と国民精神を鼓舞し、国防技術を推進する上で極めて重要な意義を持つ」。どうやらそれが中国の本音らしい。

[2012年10月10日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

現代製鉄、米工場建設を積極検討

ビジネス

英財政赤字、12月は市場予想以上に膨らむ 利払い費

ビジネス

トランプ氏の製造業本国回帰戦略、ECB総裁が実効性

ワールド

中国、国有金融機関に年収上限設定 収入半減も=関係
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 3
    「バイデン...寝てる?」トランプ就任式で「スリーピー・ジョー」が居眠りか...動画で検証
  • 4
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    大統領令とは何か? 覆されることはあるのか、何で…
  • 7
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 8
    世界第3位の経済大国...「前年比0.2%減」マイナス経…
  • 9
    欧州だけでも「十分足りる」...トランプがウクライナ…
  • 10
    「敵対国」で高まるトランプ人気...まさかの国で「世…
  • 1
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 2
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中