最新記事

新興国

インドの貧民バラマキ政策に学べ

減税しても人減らしをする企業より、確実に消費に還元する貧困層に金を渡すのが最高の景気刺激策

2012年9月5日(水)16時11分
ジェーソン・オーバードーフ

成長源 消費支出の伸びが著しいインドの地方の貧困層 Ahmad Masood-Reuters

 金を使ってくれそうな人に金を渡す――これこそ正しい景気刺激策だ。

 大企業向けの減税や救済措置などのほうが効果が高いと言う人もいるだろう。だが、セールスマンをしていた私の祖父が言っていたように、モノが売れなければ何も始まらない。そして売り上げを伸ばす最良の方法は、持たざる者に金を渡すことだ。

 その実例として、近年のインドの統計を見てみよう。

 スタンダード&プアーズ(S&P)のインド法人クリシルの最近の調査によれば、インドではこの25年(もっと長いかもしれない)で初めて、地方に住む人々の消費支出の伸び率が都市部の人々のそれを上回った。

 ヒンドゥスタン・タイムズ紙によれば、2010年度から2012年度にかけて、地方の消費支出は約680億ドルも増加。都市部での増加額540億ドルを大きく上回った。

「地方での消費の伸びを支えるのは、地方に住む人々の所得の大幅な増加だ。そしてこれは非農業部門の雇用機会の増加と、政府が地方で重点的に進めている雇用創出政策によるものだ」と、クリシルの調査報告はまとめている。


企業減税しても雇用が減らされるだけ

 今のところ、消費支出の増加のうちどれだけが出稼ぎ労働者からの仕送りによるもので、どれだけが政府の経済政策によってもたらされたものかは分からない。

 ヒンドゥスタン・タイムズは全国標本調査機構によるデータを取り上げ、2005年度から2010年度にかけて地方では建設業界での雇用が88%増加し、農業従事者の数は2億4900万人から2億2900万人に減少したと示した。もちろん、地方から都市部への出稼ぎ労働者からの仕送りも、地方での消費の増加に一役買っているのは間違いない。

 いずれにせよ、インドの最貧困層に対する補助金などの底上げ政策は実際に効果を上げているように見える。そのため、この景気刺激策に対して最近高まっている反対の声もすぐに収まるだろう。

 インドの財政赤字は対GDP(国内総生産)比で5%以上に達しており、ここ数カ月ほどは保守派による政府批判が高まっていた。彼らが言うには、政府の景気刺激策は最下層の人々へのバラマキ政策で、そんな助成(米や小麦も含まれる)を続けていては財政破綻するというのだ。

 しかし、投資や事業拡大のための刺激策として減税措置を受けながら人件費を減らす企業とは違い、貧しい人々は政府からもらった金を間違いなく市場に還元する。

 あの世界的な大企業、ユニリーバまでインドのど田舎に商機を見る昨今。その進出の裏で、政府はさぞかし多くの優遇措置を提示したことだろう。そして大企業の進出は見返りに、非農業部門の雇用拡大に貢献しているはずだ。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ゴールドマン、米自動車販売予想を約100万台下方修

ビジネス

関税の米経済への影響「不透明」、足元堅調も=ボウマ

ワールド

米、豪州への原潜売却巡り慎重論 中国への抑止力に疑

ビジネス

米3月CPI、前月比が約5年ぶり下落 関税導入で改
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 3
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた考古学者が「証拠」とみなす「見事な遺物」とは?
  • 4
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 7
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 8
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 9
    【クイズ】ペットとして、日本で1番人気の「犬種」は…
  • 10
    「宮殿は我慢ならない」王室ジョークにも余裕の笑み…
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 7
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 8
    「吐きそうになった...」高速列車で前席のカップルが…
  • 9
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 10
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中