最新記事

テロ

アルカイダ「検知不能」爆弾の脅威

2012年6月19日(火)13時25分
ダニエル・クレードマン(ワシントン特別特派員)、クリストファー・ディッキー(中東総局長)

 しかし、油断はできない。旅客機爆破未遂事件を機に、アメリカの多くの空港では搭乗前の身体検査用に全身透視スキャナーが導入されたが、外科手術で体に埋め込む爆発物の改良が進めば、検知は不可能になるだろう。

 こうした不安があるからこそ、オバマ政権は空港での水際作戦だけで満足せず、テロ組織掃討作戦に力を入れている。アフガニスタンとパキスタン、イエメンで無人爆撃機による攻撃を行っている目的はここにある。

 アラビア半島における地上の戦いでは、ナエフ王子率いるサウジアラビアのテロ対策部門がカギを握る。電子機器を用いた監視技術ではアメリカが世界一だが、この地域における人的監視能力では、サウジ当局がアメリカのはるかに上を行く。

 実力は今回の二重スパイ作戦でも発揮された。「サウジ当局はイエメン国内に強力な情報収集網を持っていて、AQAPが欧米のパスポート保持者を探しているという情報を得た」と、湾岸研究センター(リヤド)の安全保障・防衛部門責任者を務めるムスタファ・アラニは言う。

 サウジ当局は、二重スパイを送り込む絶好のチャンスと考えた。そこで見つけたのが、EUのパスポートを持つ元イギリス居住者の男性だった。これにはイギリス政府が協力したようだ。

テロ勢力はいまだ拡大中

「サウジ当局はその男性をスカウトして、イエメンに送り込んだ。すると期待どおり(AQAPが)食い付いた」と、アラニは言う。「アメリカ側も知らされていたが、これは全面的にサウジアラビア当局の作戦だった」

 成果は、最新型爆弾の入手だけではなかったようだ。5月6日にアメリカ軍がイエメンで無人爆撃機攻撃によりAQAP幹部のファハド・アル・クソを抹殺する上でも、この二重スパイのもたらした情報が役立った可能性がある。

 こうした成果も上がってはいるものの、テロの活動領域は縮小していない。むしろ、拡大し続けている。「ウサマ・ビンラディン抹殺から1年たって、問題が万事解決したかのようなムードも漂い始めているが、それはとんだ思い違いだ」と、ある米情報機関のベテラン職員は言う。「アルカイダ系の組織が安全に活動できる地域は広がっている」

 イエメンでAQAPの支配地域は過去最大に拡大しているし、ソマリア、マリ、ナイジェリア北部、アルジェリアとリビアの一部などでもアルカイダ系の組織が頭をもたげ始めている。爆弾専門家のアシリは今も健在で、ほかのエキスパートを育成している。

「安心ムードに水を差すのは本意でないが」と、この情報機関職員は言う。「心配することが私の仕事である以上、状況を丹念に精査しないわけにいかない。そして精査すると、大きな不安を感じずにはいられなくなる」

[2012年5月23日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは下落145円後半、総裁発言で日銀の

ビジネス

金融政策から派生する出来事、日銀への責任押し付けは

ワールド

韓国の電池工場火災、品質不良原因と警察発表 6月発

ワールド

ハリス氏「新たな道切り開く」、党大会で指名受諾 中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン・イスラエル戦争?
特集:イラン・イスラエル戦争?
2024年8月27日号(8/20発売)

「客人」ハマス指導者を首都で暗殺されたイランのイスラエル報復が中東大戦に拡大する日。

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘密の部屋」を公開...あまりの狭さに「私には絶対無理」との声も
  • 2
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 3
    「意外と知らない?」日本より人口減少が深刻な国々
  • 4
    「海外でステージを見られたらうれしい」――YOSHIKIが…
  • 5
    ウクライナに国境を侵されたロシア、「とてつもなく…
  • 6
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 7
    ダークウェブで29億人の個人情報が流出中...米企業の…
  • 8
    ビッグマック・セットが「2600円超」に!? インフレ…
  • 9
    社会的成功は「表情の豊かさ」が9割? 「初の大規模…
  • 10
    多数のロシア兵が戦わずして降伏...「プーチン神話」…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すればいいのか?【最新研究】
  • 3
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア戦車を爆破する瞬間「開いたハッチは最高のプレゼント」
  • 4
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 5
    【画像】【動画】シドニー・スウィーニー、夏の過激…
  • 6
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 7
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 8
    ウクライナに国境を侵されたロシア、「とてつもなく…
  • 9
    コロナ後遺症ここまで分かった...「感染時は軽度」が…
  • 10
    シングルマザー世帯にとって夏休みは過酷な期間
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すればいいのか?【最新研究】
  • 4
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 5
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 6
    バフェットは暴落前に大量の株を売り、市場を恐怖に…
  • 7
    古代ギリシャ神話の「半人半獣」が水道工事中に発見…
  • 8
    【画像】【動画】シドニー・スウィーニー、夏の過激…
  • 9
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 10
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中