最新記事

中東

シリア爆破テロは政権の自作自演か

停戦合意をあざ笑うかのような無差別攻撃は、弾圧を正当化したいアサド政権の仕業か

2012年6月18日(月)15時15分
ヒュー・マクラウド

衝撃の朝 5月10日に首都ダマスカスを襲った自爆テロは55人以上の命を奪った Khaled al-Hariri-Reuters

 アサド政権と反体制派との対立が続くシリアで、停戦に向けた国際的な努力をまたも粉砕する出来事が起こった。

 5月10日朝、首都ダマスカスのカザズ地区で大規模な爆発が起こり、少なくとも55人が死亡、370人以上が負傷。政権側、反体制側ともに事件は相手側の犯行だと非難の声を上げ、シリアが本格的な内戦に突入する可能性も高まっている。

 内務省は、1トン以上の爆発物を積んだ2台のトラックによる自爆テロと発表した。軍の情報機関の施設から約60メートル離れたところで2台が相次いで爆発。建物の入り口が吹き飛ばされ、爆風で向かい側の学校の窓ガラスが割れて生徒がけがをした。

 道路には大きな穴が2つあいた。ばらばらになった人の体が散らばり、焼け焦げてねじれた車が50台以上転がった。群衆は現場に駆け付けた国連の停戦監視団を押しのけながら、アサド大統領への支持を叫んだ。昨年3月に反体制派への弾圧が始まって以来、爆破事件としては最大の死者を出す惨事となった。

アサド政権はサウジアラビアとカタールを批判

 政府は、この爆破テロは「反体制派のテロリスト」による犯行だと指摘している。「これが彼らの求める自由なのか?」。アサド政権の治安部隊は国営テレビのカメラに向かって、遺体の一部を見せながら叫んだ。爆発の数時間後に現場の撮影を許されたのは同局だけだった。

「これがハマドとアブドラの言う自由なのか?」と、彼らは声を荒らげた。カタールのハマド首長とサウジアラビアのアブドラ国王は反体制派への支持を表明し、「自由シリア軍(FSA)」に資金と武器を提供すると公言している。

「これは私が生まれ育ったシリアではない。イラクやレバノンの爆破テロは知っていたが、シリアはもはや安全な国ではなくなった」と、事件に遭遇したバシル(25)は言う。爆発が起きた午前7時50分、バシルは出勤のためバスを待っていたが、車の後ろに伏せて重傷は免れた。

 レバノンの米大使館は、「無差別に市民を殺害する」ことは「いかなる事情があろうとも非難されるべき行為で認められない」と批判。アサド政権に、反体制派との停戦合意を実行するようにあらためて要求した。アナン国連・アラブ連盟特使が仲介した停戦合意は1カ月前に発効したが、初日から双方に無視されて形骸化している。

「このようなテロは何の解決にもならない」と、国連監視団の1人は言う。「女性や子供をさらに苦しめるだけだ」

狙われた反体制派の拠点

 平日のダマスカスが爆弾の標的になったのは初めてだ。今年1月以降に起きた爆発はいずれも週末で、治安部隊の特定の建物や人物を狙い、市民や兵士の犠牲者は今回より少なかった。

 今回の事件について、ヌスラ戦線を名乗るイスラム過激派グループがインターネットで犯行声明を発表した。彼らは最近の2件でも犯行声明を出していた。欧米の安全保障の専門家はヌスラ戦線をイラクのアルカイダ系武装組織とみている。

 反体制派は、これまでの爆破事件と同じように政権が仕組んだものだと非難する。爆発の起きたカザズは、反体制派の抗議活動が盛んな地区だった。「誰が得をするのか。アサド政権だ」と、ダマスカスの反体制派指導者は語る。「政権は最初から、今回の爆発を利用してカタールやサウジアラビア、アメリカ、欧米を攻撃している。自分たちの相手は平和的なデモ隊ではなく、過激なテロリストだと言いたいのだ」

From GlobalPost.com

[2012年5月23日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中