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ブラジルW杯で超格差社会へ一直線
経済効果が期待される一方で貧困層へのしわ寄せを指摘する声も高まっている
贅沢な施設 工期の遅れが懸念される一方で高い建設費用にも非難が(サルバドルのスタジアム工事現場) Lunae Parracho-Reuters
2014年にサッカーのワールドカップ、そして2年後の16年には夏季五輪大会の開催が決まっているブラジル。閣僚たちが経済効果の高さをうたう一方で、世界で最も貧富の差が大きいこの国で世界最大級のスポーツイベントを2つもやれば、格差はさらに拡大すると懸念する声も高まっている。
問題は多岐にわたる。競技施設の建設費の高さや、スタジアム予定地周辺に暮らす貧しい人々の強制的な立ち退き、一般のサッカーファンにはとても手の届かないチケット料金......。フルミネンセ連邦大学大学院のクリストファー・ギャフニー客員教授(建設・都市計画)は、「いったい国民の誰が得をしているのか」と問い掛ける。
ブラジルのアルド・レベロ・スポーツ相に言わせれば、国全体が手にする利益を考えれば、不都合な点があっても大した問題ではない。6週間に及ぶワールドカップの開催期間にブラジルを訪れる観光客は340万人と見込まれており、政府はこれを大きなビジネスチャンスと期待している。「わが国の建築や通信技術の発展にとって、そしてブラジルのステータスを上げるための、大きくて重要なチャンスだ」とレベロは言う。
それでもギャフニーのような批判派は、競技施設の建設などではなく、人々の生活向上のための社会政策に金を投じるべきだと主張する。ブラジルでは今も、国民の平均月収は680ドル止まりだ。
例えばワールドカップの試合が開催される全国12カ所のスタジアム。ブラジル政府は費用を度外視して、これらの施設に最新の技術を取り入れることを決めた。スタジアムの建設や改修に掛かる費用は、当初予定の30億ドルを大きく上回る40億ドルに達する見込みだ。
多くのスタジアムには太陽光発電で動く可動式の屋根や、折り畳んだり取り外しが可能なシートが整備される予定だ。こうした高度な技術を使った設備は外国から輸入しなければならない上に、毎年のメンテナンス費用が購入価格の約10%掛かるとみられる。「10年で2倍の額を払うことになる」とギャフニーは主張する。
一般ファンは門前払い?
貧困層が置き去りにされている面は他にもある。スタジアムの拡張や道路の整備などのため、ブラジル各地で貧困層が暮らす地区から住民が強制的に立ち退かされている。リオデジャネイロだけでも既に推定1万5000人が家を追われた。
高過ぎるチケット代にも不満の声が上がっている。全部で300万枚用意されるチケットのうち、国内で売り出されるのは100万枚だけ。その多くは1枚100ドルをゆうに超える金額だ。FIFA(国際サッカー連盟)は30万枚のチケットを1枚25ドルという安価で販売し、10万枚を先住民や最貧困層といった恵まれない人々の団体向けに用意するよう決めた。
だがこれに対しても、往年の名選手で現在は国会議員を務めるロマーリオは手厳しい。「年金生活者にそんな出費は無理だろう。彼らはワールドカップから締め出されたも同然だ」
ワールドカップ関連施設の建設や整備が進んでいないことも、大きな懸念材料となっている。東部の都市ナタルに至っては、工事の大幅な遅れを理由に試合の開催地から外される可能性までささやかれている。FIFAのジェローム・バルケ事務局長はこれを否定しつつも「大幅に遅れているのは事実で、今後はさらにしっかりと監視する必要がある」と述べている。
ワールドカップ開催までもう2年しかない。
From GlobalPost.com
[2012年5月23日号掲載]