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中国「尖閣購入」に中国が激怒しないのは
南シナ海ではフィリピンともっと熱い領有権争いの真っ最中
一歩も引かず マニラで起きた反中国デモ(4月16日) Romeo Ranoco-Reuters
領土の保全を自国の「核心的利益」と位置付ける中国。これまで日本と領有権を争う尖閣諸島(中国名・釣魚島)が問題になると、感情的反応を繰り返してきた。10年の漁船衝突事故後も、日本側が島に独自の名前を付けるとすぐさま中国名を付け返した。
ところが東京都の石原慎太郎知事が16日、ワシントンで「東京都が尖閣諸島を購入する」と突然ぶち上げたにもかかわらず、中国政府の対応は外務省が「日中関係を損なう」といった控えめなコメントを出しただけ。いつもは大騒ぎする中国版ネット右翼「噴青(フェンチン)」も比較的静かだ。
重慶市で起きた政治スキャンダルが共産党最高指導部を揺るがしていることも、「沈黙」の理由の1つだろう。ただそれだけではない。実は中国は今、もう1つの領土紛争で忙しいのだ。
4月初め、フィリピンが実効支配する南シナ海のスカボロー礁(中国名・黄岩島)付近で操業していた中国漁船をフィリピン海軍の艦船が捜索し、違法に採取したサンゴやサメを発見。中国人船員を逮捕してフィリピンに戻ろうとしたが、中国政府が派遣した2隻の漁業監視船に妨害され、海上でのにらみ合いが1週間以上続いた。さらにこの間、南シナ海では両国間の緊張を高めるフィリピン軍と米軍の合同演習まで始まった。
中国は南シナ海で南沙諸島(スプラトリー諸島)、西沙諸島(パラセル諸島)の領有権も争っている。中国が周辺国と領土をめぐる紛争を起こすのは、海洋資源の独占をもくろんでいるためとされる。だが現実にトラブルを起こすのは、水産資源を狙う漁民が多い。中国の領土問題には、豊かになった国民を近海の資源だけでは満足させられなくなったという経済的側面も強い。
逆風も吹き始めている。国連の国際海洋法裁判所は3月、ビルマ(ミャンマー)とバングラデシュが争っていたベンガル湾の境界線について判決を出した。認められたのはバングラデシュが主張する大陸棚ではなく、ビルマの求める中間線。日本と中国が海底資源を争う東シナ海ガス田問題では日本が両国の中間線を、中国は大陸棚を境界線と主張している。この問題が国際海洋法裁判所に付託されれば、同じ判決が出る可能性もある。
中国は今までのこわもてな姿勢を改めるべき時なのかもしれない。
[2012年5月 2日号掲載]