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アメリカ社会パッキャオを吊し上げたメディアの暴走
フィリピンの国会議員で世界的ボクサーのパッキャオは本当に「同性愛者は処刑されるべき」と言ったのか
セレブ ロサンゼルスに住まいを持ち常に注目されるパッキャオ Danny Moloshok-Reuters
ボクシング界の世界的大スターでフィリピンの国会議員でもあるマニー・パッキャオが、同性愛者は処刑されるべきだと考えていると、USAトゥデー紙やLAウィークリー紙やオンラインメディアのデイリー・コスといった定評あるアメリカのメディアの多くが報じている。
その話の出元は? 「全米保守イグザミナー紙」が掲載したインタビュー記事の中で、パッキャオ自身がそう語っているという。LAウィークリー紙は、問題のインタビュー記事を引用しながら、パッキャオがイベントのために訪れる予定だったロサンゼルスのショッピングモールを出入り禁止になるとか、「パッキャオを殴りつけることができるゲイ10人」というウェブ記事などを嬉々として紹介した。
ただナイキがスポンサーに付くパッキャオが、すべての同性愛者に消えてほしいと考えている、という話をジャーナリストが鵜呑みにするのはいかがなものか。その理由はいくつかある。
最も大事なのは、「全米保守イグザミナー紙」という新聞が存在しないということだ。
パッキャオのインタビューはイグザミナー・コムというサイトに掲載された。このサイトは「自発的で独立した寄稿者」が猫の飼育やクッキーのレシピ、政治などについてのポストを掲載している。
さらに世界有数のセレブであるパッキャオとのインタビューに成功した「フリー記者」の名前は、グランビル・アンボング。アンボングは、「マハリカン・タイムスやフィルボクシング・コムで信頼される主力ライター」だという。フィルボクシング・コムは実際に存在するが、マハリカン・タイムスは、「全米保守イグザミナー紙」と同様に存在していないようだ。
さらに酷いのは、同性愛者に死を、と語ったとされるパッキャオの発言の引用も、でっちあげだということ。
USAトゥデー紙によれば、パッキャオが同性愛者は「処刑されなければならない」という旧約聖書のレビ記の一節を引き合いに出したことになっている。だがこの一節に言及したのはパッキャオではなく、インタビュー記事を書いたアンボング自身だった。アンボングが補足記事にそう書いているのだ。
スポンサーへの圧力も
パッキャオは、フィリピン人の多くと同じ敬虔なカトリック信者だと主張している。主張はかなり保守的で、昨年はコンドームは罪深いとも発言している。
パッキャオが議員だけでなくフィリピン軍の陸軍中佐などの要職に就く立場であることを考えれば、その言動が逐一厳しくチェックされるのは当然だが、勇み足のジャーナリストや、ウラを取らずにデマを広げるネットメディアも糾弾されるべきだ。
オンラインメディアのサロンによれば、でっち上げられたパッキャオの発言はあっと言う間に拡散され、ツイッターは炎上し、騒動は雪だるま式に大きくなった。「社会運動SNSのチェンジ・オルグはパッキャオのスポンサーのナイキに対し、同性愛差別のボクサーと縁を切るよう要求する嘆願書を掲載した。
パッキャオは公に反論。その中で「あの発言は嘘だ。私は同性愛に反対してはいない。親族にも同性愛者がいる。そう生れた以上しょうがないことだ。私が非難するのは神の言葉に違反することだ。同性間の結婚は神の決まりに反することだという意見を述べただけだ」