最新記事

エネルギー

中国原発はフクシマに学べ

中国が取り組むべき課題は発電能力の増強よりも透明性と安全性の向上だ

2012年4月26日(木)16時49分
ケビン・トゥ(カーネギー国際平和財団上級研究員)

方針転換 福島原発の事故を受け、中国は当面原発の新規建設を凍結したが(写真は今年2月、内モンゴル自治区の原発) Carlos Barria-Reuters

 1年前、日本をマグニチュード9.0の巨大地震と大津波が襲い、福島第一原子力発電所でチェルノブイリ以降最悪の原発事故が発生した。

 事故の影響は日本の国外にも及んだ。世界で最も野心的な原発建設計画を推し進めている中国は、福島の事故を受けてすぐに、新たな安全計画が策定されるまでは新規建設計画の承認を凍結する方針を表明した。

 中国は20年までに原子力発電能力を80ギガワットにする目標を掲げていたが、この方針転換により目標は60〜70ギガワットへと大幅に引き下げられる見通しだ。原発推進派は80ギガワットの目標を維持するよう政府に活発な働き掛けを続けている。しかし中国には原子力発電能力を高める前に、原発の安全性をめぐり解決すべきさまざまな課題がある。

 第1に、安全性の監視体制が中国の原子力産業の大きな弱点だと認識すること。原子力発電の開発計画を統括する国家発展改革委員会は、最も強力な政治権限を持つ行政機関。それに比べて、民間の原発監視機関を管轄する環境保護部の権限はずっと小さい。

 この官僚機構内部のアンバランスな関係と利害者同士の権力争いが、中国における原発監視体制の整備を遅らせている。日本のような当局と業界のなれ合いを避けるためにも、安全監視体制の抜本的な改革が必要だ。

 透明性の欠如も問題だ。福島第一原発の事故直後、中国全土でヨウ素添加塩のパニック買いが起きた。政府も専門家も「必要ない」と明言したが、大衆が落ち着きを取り戻すまでしばらく時間がかかった。

 この一件は中国社会で原発についての基本的知識が欠けていることを示すが、そもそも秘密主義を続けてきた原子力産業の責任が大きい。同時に、政府と社会の間に基本的な信頼関係がないことを浮き彫りにした出来事でもあった。

 透明性欠如の問題は、その後も基本的に変わっていない。NPO(非営利組織)「核脅威イニシアチブ」が今年1月に発表した世界核物質安全性指数では、核の安全管理と核物質に関する透明性の部門で、中国は核物質を保有する32カ国中27位だった。

 核に関する技術と関連施設の「安全な輸出能力」も、中国が今後対処すべき課題だ。中国はこれまでパキスタンに第2世代原子炉を輸出してきたが、より高性能の第3世代炉は逆に外国から輸入している。

原発輸出を止められるか

 国内に十分な開発能力がなく、特許関連の制約も多いため、輸出可能な最新型の原子炉を独自開発できる段階にはまだないのが現状だ。それでも中国が経済的・地政学的理由から、今後も他の途上国に原子炉や関連技術を輸出する可能性はある。

 昨年はドイツとスイスが原発の段階的な廃止を決定。アメリカでも原発建設計画の資金調達と認可が一段と難しくなった。主要国中、最も原発への依存度が高いフランスでさえ、再生可能エネルギーの割合を増やしていく意向を表明している。

 このように先進国では原発の将来に明るい展望が見込めないため、国際的な原子力関連企業がビジネスチャンスを求めて途上国(特に中国)に目を向ける可能性もある。

 原子炉運転の経験がほとんどない途上国や、テロが懸念される地域の周辺国、最新技術を輸入できる資金力がない国に原発が増えたらどうなるか。途上国地域で大規模な原発事故の発生リスクが高まることになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

BHP、豪鉄鉱石・石炭部門の分離を検討

ビジネス

仏産ワイン・蒸留酒、関税で米国販売20%減へ 業界

ビジネス

米関税政策、世界経済脅かす可能性 豪中銀が警告

ワールド

日本の関税24%、働き掛け奏功せず 安倍元首相をト
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中