最新記事

シリア

メディアが伝えないシリア国民の本音

反アサド派の蜂起はどの程度民意を反映しているのか——世論調査などで見えてきた意外な実態

2012年4月9日(月)15時58分
山田敏弘(本誌記者)

根強い支持 シリア国内では、アサドが権力の座に残ることを望む人も少なくない(2011年6月、首都ダマスカス) Khaled al-Hariri-Reuters

 アラブ諸国の民主化運動が一段落した現在でも、唯一シリアの混乱は収まっていない。国連によれば、アサド大統領による反体制派への弾圧で、これまで7500人以上が死んだ。だがシリアで続く反体制派蜂起は、どれだけ民意を反映しているのだろうか。

 アメリカをはじめとする国際社会はアサド政権に対して非難を強めている。今年2月初め、国連安全保障理事会はアサドに退陣を求める決議案の採決を行った。

 しかし、この決議案はシリアと歴史的に関係の深いロシアと中国の拒否権行使で否決される結果となった。拒否権を行使したロシアのラブロフ外相は、アサド政権が崩壊すればシリアは内戦に陥ると主張する。自国の人権問題も非難されているロシアだが、この主張はあながち間違いではないかもしれない。

国民の55%がアサドを支持

 今年1月、昨年末にシリア国民など1000人を対象に実施された世論調査の結果が公表された。この調査の実施主体の背後には、シリアに対して厳しい態度を取るカタール政府がいた。だが、その結果は意外なものだった。シリア国民の55%はアサドを支持していることが分かったのだ。

 しかもアラブ諸国のほとんどはアサドが退陣すべきだと考えているのに対して、シリア国民の多くはアサドに対して退陣を求めていなかった。理由は、アサド政権が崩壊して国内が内戦状態に陥ることを危惧しているからだという。

 一方で、アサドが権力の座に残ることを望む人たちは、彼に公正な選挙を実施することも求めていた。

 サンプル数が少ないとの批判もあるが、この調査結果はシリア国内でくすぶる懸念を反映している。シリアは、イスラム教シーア派の一派とされ国民の12%ほどを占めるアラウィ派のアサドが統治する国だ。他方で、反政府デモを引っ張るスンニ派が国民の70%を占める。

 そんなシリア国内で、例えば国民の10%を占め、過去40年以上アサド家に守られてきたキリスト教徒たちは、アサド政権が崩壊してスンニ派からの迫害が始まることを恐れている。アラウィ派の大半ももちろん同じ思いだ。

メディアが生むイメージのギャップ

 シリアでは、欧米メディアが自由に入国して取材できない状況が続き、ジャーナリストが死亡する事件も相次いでいる。外国メディアは欧米政府やシリア国外で活動する反体制派、人権団体が発信する情報に頼らざるを得ない。だが、それが国全体の現実をどこまで反映しているかは分からない。

 レバノンに逃れた反体制派の中には、政府軍とデモ隊の衝突で巻き添えになった市民の残酷な写真や映像を集めて外国メディアに提供する組織も存在する。それを報じるメディアも、信憑性は分からないと前置きをした上でこうした情報を報道する。その結果、アサド政権の残忍なイメージが広く世界に伝わっている面もある。

 多くの国民が政府部隊との衝突で命を落としているのは間違いない。ただそれが、必ずしもシリア全体の民意を反映しているとは限らない。

[2012年3月14日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、イラン核施設への限定的攻撃をなお検討=

ワールド

米最高裁、ベネズエラ移民の強制送還に一時停止を命令

ビジネス

アングル:保護政策で生産力と競争力低下、ブラジル自

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 5
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 8
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 9
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 10
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 5
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 6
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中