最新記事

中東

イスラエルは既に戦争モード

イランの核開発は断固阻止するというネタニヤフの強硬発言はイランを利するだけ

2012年3月7日(水)17時32分
ジェシカ・フィーラン

決意 アメリカにアウシュビッツ空爆を拒否された歴史は繰り返さないと語るネタニヤフ Joshua Roberts-Reuters

 イスラエルは何としてもイランの核兵器開発を阻止する覚悟だ――イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は3月5日、米ロビー団体の米・イスラエル広報委員会(AIPAC)の会合でそう演説し、決意を語った。

「わが国民が壊滅の危機に怯えながら暮らすような事態は許さない」とネタニヤフは語り、ワシントンの親イスラエルロビー団体から喝采を浴びた。折しもこの前日には、バラク・オバマ米大統領が同じくAIPACに対し、イランとの「戦争」について軽々しく語るべきではないと釘を差したばかりだった。

 演説でネタニヤフは2つのポイントを示した。イランが核兵器を開発していることを確信している。また、それをイランの指導者たちが説得によって放棄するとは考えにくい――。

「イランは医学的な研究目的でウラン濃縮を行っていると主張している。ああ、そうだろうとも」と、ネタニヤフはこの説明を一笑に付した。「アヒルみたいに見える鳥がいたら、それはアヒルだ。だが、これは核のアヒル。世界もそろそろ、それを認めるべき時だ」

 これまでアメリカの諜報機関の上層部は、イラン政府が目指しているものが核兵器の開発だという明確な証拠はない、と何度も繰り返してきた。それにイランが核兵器を完成させる能力を獲得するには、少なくともあと1年は必要だとも述べてきた。

自分の運命は自分で決める

 だがネタニヤフは、もう時間切れは目前だと主張する。彼は演説で、第二次大戦中の1944年に起こった出来事を引き合いに出した。当時、米軍部が世界ユダヤ人会議に送った手紙のコピーを提示し、アメリカが恩恵よりもリスクのほうが大きいとして、アウシュビッツ強制収容所への空爆を拒否した歴史を例に挙げたのだ。

 ネタニヤフが言うには、当時と2012年の今とでは状況がまったく違う。「ユダヤ人はもう二度と、自分の運命と生存を誰かの手に委ねるような無力な存在にはならない」と、ネタニヤフは言う。「だからイスラエルは、どんな脅威からも身を守る能力を常に持っていなければならない。私はアメリカとイスラエルの同盟関係に心から感謝している。だがイスラエルの生き残りが問われるような場面ではいつでも、運命を決めるのは私たち自身でなければならない」

 左派系のイスラエル紙ハーレツは、この演説はネタニヤフが「戦争モード」にあることを示していると指摘した。コラムニストのシェミ・シャレブによれば、これは軍事行動に出る前にはもっと長い時間を外交交渉に費やすべきだと主張するオバマに向けたメッセージだという。

「イスラエルがすぐに攻撃に出ることはないだろう。だがオバマの思い描く予定表に従うこともない」と、シャレブは言う。「イランへの軍事攻撃なしに事態を劇的に解決する手法があるなら(ネタニヤフはそんな可能性は信じていないが)、あと数カ月は様子を見よう、というのがイスラエルの姿勢だ」 

 そして数カ月たっても状況が好転しなければその時は、「我が国の破滅を招くようなイランの行為を、イスラエルは決して許さない』と、ネタニヤフは明言した。

 一方で、中東の衛星テレビ局アルジャジーラは、こうしたネタニヤフの「口撃」でイランの姿勢が変わることもないと言う。「イランではイスラエルは常に民衆の最大の敵であり、ネタニヤフの攻撃的な物言いは指導層を利するだけだ」と、テヘラン特派員のドルサ・ジャバリは言う。「イラン国民は逆に団結を強め、政権を支持するようになる」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国経済、国際環境の変化への適応が必要=習主席

ワールド

独メルツ政権5月発足へ、社民党が連立承認 財務相に

ワールド

ウクライナ和平、米が望む急速な進展は困難=ロ大統領

ビジネス

台湾、25年成長率予想3.6% 第1四半期は5.3
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中