最新記事

シリア

砲弾に散った隻眼の女性記者、死の真相

何の自衛手段ももたずにアサド政権の虐殺現場を取材するジャーナリストたちが格好の標的に

2012年2月23日(木)16時44分
エリン・カニンガム

志半ば コルビンは長年にわたって紛争地域を取材してきた(2011年6月) Zohra Bensemra-Reuters

 シリアで反体制派への血の弾圧が苛烈を極めるなか、西部の都市ホムスでまた悲劇が起きた。政府軍の砲撃で外国人ジャーナリスト2人が死亡。ウエブを通じてホムスの様子を伝えていた地元ジャーナリストも殺害された。

 報道によると22日午前、外国人ジャーナリストたちが「メディア・センター」として拠点にしていた建物を、政府軍の迫撃砲が直撃。英サンデー・タイムズ紙のアメリカ人記者マリー・コルビンと、フランス出身のカメラマンのレミ・オシュリクが逃げ遅れた。

 反体制派の抗議活動が11カ月目に入ったホムスでは、政府軍による弾圧の実情を取材するため、外国人ジャーナリストたちが逗留していた。

 アサド政権が外国メディアの取材を制限しているため、多くの外国人ジャーナリストはシリアへ「不法入国」している。そのため、メディアとして保護を受けられるような手続きや安全措置もとっていない。

 先週も、米ニューヨーク・タイムズ紙記者のアンソニー・シャディドが、シリア北部を取材中に喘息の発作で死亡した。適切な治療を受けられる状況ではなかったためだ。

危険を冒して伝える勇気

 反体制派の活動家によれば、地元ジャーナリストは安全の保証などゼロに等しく、政府軍の標的にされているという。

 ソーシャルメディア「バンブーサー」によれば、政府軍による攻撃のライブ映像をホムスからウェブで配信していた市民ジャーナリスト、ラミ・アフマド・アル・サイードが21日に殺害された。彼が配信した映像はBBCやアルジャジーラでも使われていた。

 米民間団体「ジャーナリスト保護委員会」は昨年の特別報告書で、アラブ諸国の反体制活動を取材するジャーナリストの死亡率が高いと指摘している。

 コルビンは01年、スリランカで取材中に左目を失明。その後も、コソボやチェチェンで紛争取材を続けてきた。10年には英ガーディアン紙の取材に対し、紛争地域で取材することの危険とその意義について詳細に語っている。


 戦争取材とは混乱と破壊、そして死があふれる場所へ行き、その目撃者になること。軍隊や部族、テロリストが戦い、プロパガンダの砂嵐が吹き荒れる中で真相を見つけ出すことだ。もちろん、それには危険が伴う。自分だけでなく、一緒に働く人にも危険が及ぶ。

 爆撃によるクレーター、焼け落ちた家々、手足がちぎれた死体、子供や夫を亡くして泣く女性たち、そして妻や母、子供を失った男性たち----。

 われわれジャーナリストの使命は、こうした戦争の恐怖を正確に、偏見なく伝えることだ。危険を冒すに値する内容の記事が書けるかどうか、常に自問しなければならない。どこまでが勇気で、どこからが蛮勇なのか、と。


GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

外貨準備のドル比率、第3四半期は56.92%に小幅

ビジネス

EXCLUSIVE-エヌビディア、H200の対中輸

ワールド

25年の中国成長率、実際は2─3%台か 公式値の半

ビジネス

利下げしなければ、景気後退リスク増大─ミランFRB
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中