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中東迫るシリア「崩壊」に怯えるイスラエル
イスラエルにとってシリアは長年の宿敵だが、アサド政権が倒れれば今度はあの「反イスラエル勢力」が勢いを増す恐れがある
命運を握る男 アサド大統領はまだ数年は権力を保ち続けるとみる向きもあるが(ダマスカス、1月20日) Ahmed Jadallah-Reuters
昨年からの民主化デモでシリアのアサド政権が揺らぐなか、イスラエル当局はシリアの化学兵器が隣国レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラの手に渡ることを心配している。
「危険なのは、秩序ある権力の移譲ができないほどシリアの情勢が悪化することだ」と、イスラエルの情報機関モサドの元長官エフライム・ハレビは言う。「そうなったら、化学兵器を含む大量の武器がヒズボラに渡る危険が生じる」
もう1つの懸念は、国家としてのシリアが崩壊し、権力の空白をハマスやヒズボラのような「非国家勢力」が埋める可能性があることだ。
イスラエルはこれまでに、シリアと3度の全面戦争を経験している。67年にイスラエル軍が占領したシリア領ゴラン高原をめぐっては、今もアサド政権と対立が続いている。シリアは、反イスラエルを掲げるヒズボラに武器供与などの支援を行っているとされる。
欧米の情報機関も知らない兵器の在りか
ヒズボラは06年の戦闘で、イスラエルに数千発ものロケット弾を撃ち込んだ。もし化学兵器を手にすればヒズボラの兵力は増大し、新たな戦闘の可能性も高まるだろう。同時に、アメリカがテロ集団と分類する非国家勢力としては初めて、大量破壊兵器を大量に入手することになる。
大量破壊兵器の保有を認めていないシリアだが、専門家によれば化学兵器を搭載した砲弾とミサイルを大量に保有しているという。欧米の情報機関は兵器の保管場所や状態を把握しておらず、武器の流出を止めるのは難しいと、核兵器問題専門家のレナード・スペクターは言う。「武器庫がどこにあるのか分からない。武器を破壊したり、取り上げたりする確実な方法はない」
最善のシナリオは、アサド政権から選挙で選ばれた新政権へと権力が移行され、新政権が自発的に兵器を破棄することだ。
しかし、90年代にシリアとの和平交渉でイスラエル側の交渉責任者を務めたイタマル・ラビノビッチは、アサドがおとなしく権力の座を譲ることを期待してはいけないと語る。「数時間しか残されていないと知ったら、アサドはイスラエルを含め四方八方にミサイルを発射するかもしれない」
イスラエルのバラク国防相は先日、アサド政権は数週間の命だと語った。一方、リビアのように欧米の介入がなければ、アサド政権は数カ月あるいは数年生き延びるという見方もある。
[2012年1月18日号掲載]