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中東エジプトのサッカー場暴動は仕組まれたのか
各地で抗議デモを巻き起こす引き金となった北部ポートサイドの暴動は、軍部が企てたとの見方もあるが
怒りの連鎖 首都カイロをはじめ、エジプト各地で軍政批判のデモが拡大(カイロ、2月2日) Asmaa Waguih-Reuters
サッカーの試合が終わった直後だった。ピッチに暴徒化したサポーターがなだれ込み、相手チームの観客にナイフで切りつけ、客席から競技場のコンクリートめがけて投げ落とす----。
そんな悪夢のような光景が現実となったのは先週半ば、場所はエジプト北部ポートサイドのスタジアム。サポーター同士の乱闘が暴動に発展し、少なくとも74人が死亡。スポーツ絡みの事件としてはエジプト史上最悪の事態に発展した。
その後、暴動は各地に飛び火し、デモ隊と警官隊の衝突が拡大。エジプト保健省によれば、首都カイロや北部の都市スエズでは約2500人が負傷、少なくとも12人が死亡したという。
警官は暴行を傍観するだけ
スタジアムで暴動を引き起こした黒幕は、ムバラク政権崩壊後に全権を握り、暫定統治を続ける軍部だとみる向きも少なくない。エジプトでは1月にムバラク後初の国政選挙が行われ、新議会が誕生。政権が影響力を強めるなか、1月に一部解除したばかりの非常事態令を復活させることが狙いともみられている。「今回の一件は、初めから仕組まれていたんだと思う」とポートサイドの住人、ハテム・オマールは語る。
ポートサイドの試合で対戦したのは、地元チームのアルマスリと強豪アルアハリ。アルアハリのファンと言えば、「アラブの春」で大量の人員を組織し、民主化デモの中心的役割を果たしたことで知られる。
そんなアルアハリの選手やサポーターを、暴徒化したアルマスリ側のサポーターが襲撃。しかも、スタジアムに配備された警官たちは暴徒を止めようともせず、傍観するだけだったという。そんな様子がビデオ映像や目撃者証言で明らかになったことをきっかけに、各地にデモが拡大した。「アルアハリの一部のサポーターはスタジアムの出口へ走っていったが、鍵がかかっていて逆に逃げ場を失った」と、オマール言う。
権力を奪った国民への怒り
仕組まれたかどうかは別にして、独裁体制が急に崩壊した後の「ひずみ」が原因の一つであるのは確かだろう。
エジプト内務省は数十年にわたり、ムバラク前政権下で国民に対する拷問を行ってきた中心的組織だ。しかし今になっても、内務省を改革する動きは見えてこない。それどころか、警官は昨年の暴動で一般市民から暴行を受け、負けたことに怒りを募らせているという。「警官は誰もが、心の中で怒りをたぎらせている」と、人権派弁護士のアミール・サレムは言う。