ビルマ民主化はどこまで本気か
56年ぶりの米国務長官の公式訪問は評価の表れ? 改革路線で欧米に接近するビルマの本音はどこに
初めの一歩 歴史的なビルマ訪問で、スー・チー(右)と会談したヒラリー(2011年12月) Reuters
ヒラリー・クリントン米国務長官が11月30日から12月2日まで、ビルマ(ミャンマー)を公式訪問する。国務長官がビルマを訪れるのは過去半世紀で初めてだ。
今回の訪問は、バラク・オバマ大統領による「試験」の一環でもある。ビルマに芽生え始めた改革の兆しは単なる見せ掛けか、それ以上のものか──。
ビルマは昨年、20年ぶりに実施した総選挙で「民政移管」を行った。とはいえ長年弾圧されてきた反体制派も、亡命した民主化活動家も国際社会も、ビルマの民主化はうわべだけだと考えていた。裏では数十年にわたり権力を握ってきた軍部が糸を引き、独裁的な体制を維持するはずだ、と。
だが新政府は(ビルマの基準からすれば)驚くべき行動に出ている。昨年11月に民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーの自宅軟禁を解き、これまでに政治犯200人以上を釈放した。
そのおかげか、11月中旬にクリントンのビルマ公式訪問が発表され、ASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議ではビルマが2014年の議長国に就任することが正式に決まった。それだけではない。スー・チーは先頃、来年行われる国会上下両院の補欠選挙に、自ら率いる国民民主連盟(NLD)が参加することを表明した。
こうした進展は孤立状態を解消するのに役立つはずだ。問題は、ビルマのテイン・セイン大統領がどこまで本気かということ。さらに重要なのは、どこまで変革を認めるつもりがあるのか、だ。
クリントンの訪問は「歴史的チャンス」であり、ビルマには「前進の兆し」が見えるとオバマは語った。そうは言っても、大きな期待を寄せているわけではない。
その点は、クリントン本人も同じだ。今回の訪問は外交であると同時に、ビルマの「実態調査」でもあると、彼女は米ニュース番組で発言した。「ビルマへの経済制裁は解除しない。これまでの方針を突然転換することもない」
中国一辺倒からの脱却
最近の流れを受け、ビルマの体制批判派に広がっているのは警戒ムードだ。彼らの間では、慎重かつ楽観的な見方と懐疑的な意見が入り交じっている。
「警戒しつつも楽観視できるのには訳がある」と言うのは、タイを拠点に発行されている亡命ビルマ人向け雑誌「イラワジ」の編集者アウン・ゾーだ。「ビルマの支配層の間では、穏健路線に転換するしか道はないとの認識が一般的になっている。彼らはASEANとの絆の再建や、アメリカをはじめとする欧米諸国との関係修復を目指している。行く手にアメリカが立ち塞がっていては、より良い方向どころか、どこへ進むこともできない」
ビルマ政府にとっては、今こそ政府に対する懸念が誤りだと証明するチャンス。ASEAN議長国に就任すれば「指導層はよりまともな行動を取るだろう」と、イラワジでは指摘されている。「現政権がアメリカとの間の緊張を解消し、中国と距離を置きたがっているのは公然の秘密だ」
アウン・ゾーらが言うように、最大の庇護者である中国だけを当てにしてはいられないと、ビルマ政府は気付き始めたのかもしれない。人権を侵害し、少数民族を迫害するビルマへの制裁措置に、中国は強く反対してきた。だが中国の後押しがあっても、経済制裁が解除されるめどは立たず、国際社会におけるビルマ政府の評判はほとんど向上していない。