中国は先進国になれない
最大の強みだった豊富な労働力は過去のもの。巨大な成長マシンが一気に崩れる意外な理由とは
箱は空っぽ 100万人都市を作る再開発を祝う内モンゴル自治区オルドス市の看板 David Gray-Reuters
01年の会社設立からわずか10年でシャープや京セラといった日本勢を蹴散らし、世界の太陽光発電パネル市場のトップに立った江蘇省無錫のサンテックパワー(尚徳電力)は、「日中逆転」の象徴として話題の企業だ。
「とても面白いところだった」と、最近その工場を訪ねたある証券会社のアナリストは言う。クリーンルームに入るため靴を履き替え帽子をかぶり、ガラス越しに各工程の説明を受けるのはほかの最先端工場と同じ。違うのは、クリーンルームの中が「人でいっぱいだった」ことだ。
一見すると最先端技術の塊のような太陽光発電パネルの製造も、中国の手に掛かれば人件費の安さに依存した労働集約型のビジネスモデルになる。サンテックの例は、先進国になれるのかそれとも新興国止まりなのか──大きな岐路に立つ中国経済の姿を鮮明に映し出している。
決定的な鍵を握るのは、2015年をピークに生産年齢人口(15〜64歳)が減少の一途をたどる急速な少子高齢化と、それに対する産業や経済の適応力だ。
一見、中国は今の勢いで先進国の仲間入りを果たすかのように見える。中国は昨年、GDP(国内総生産)で日本を抜き世界第2位の経済大国に躍り出たばかり。うまくすれば、1人当たりGDPでも現在の4000ドルから、世界銀行による「高所得国」の定義である1万2000ドルを達成するかもしれない。
「3人でできる仕事を10人でやりながら競争力を保っているということは、いま進めている自動化が進めば、労働人口が減ってもなお競争力が増す可能性があるということだ」と、先のアナリストは言う。
一人一人の生産性が上がれば、生産年齢人口が減っても中国は高成長を維持し、自動化であぶれた労働者も新たな雇用で吸収できる。結果的に格差は縮小し、誰もが衣食住足りて文化的な生活を送る先進国のイメージに近づくことも不可能ではない。
だが、そう楽観的でないもう1つのシナリオもある。サンテックのクリーンルームのように、中国経済がいつまでも安価な大量の労働力頼みに終わるという可能性だ。資本集約型への生産シフトや技術革新による生産性の向上が達成できなければ、生産年齢人口が減っていくなか、これまでのような成長はとても望めなくなる。見掛け倒しを露呈した高速鉄道の事故は、氷山の一角かもしれない。
今のところ現実味があるのは後者のシナリオだ。世界銀行は5年ほど前から、中国が「中所得国の罠」に陥る危険性を指摘してきた。1人当たりGDPで見ると、中国は「後開発途上国」「低所得国」の段階を脱して中所得国の位置にいる。「中所得国の罠」とは、次のステージである高所得国になる前に成長が止まってしまうことだ。