最新記事

中国

チベット焼身自殺が招いた学内集団襲撃

チベット人と漢民族の亀裂が深まるなか、四川省ではキャンパス内でも流血の襲撃事件が発生

2011年12月19日(月)16時01分
エミリー・ロディッシュ

捨て身の抗議 四川省では中国政府の圧政に抗議する僧侶や尼僧の焼身自殺が多発(11月3日) Students For A Free Tibet via Reuters TV-Reuters

 まさに今の中国を象徴するような事件が発生した。先週、四川省成都市の成都鉄道工程学校で、漢民族の学生グループが学内のチベット人学生たちを集団襲撃したのだ。

 攻撃に加わった漢民族の学生が書いたとみられるブログによれば、漢民族側の参加者は総勢約3000人。彼らは14日の夜にチベット人の学生寮を取り囲み、およそ200人のチベット人学生を襲撃した。

 彼らのスローガンは「チベット人をぶちのめして単位を稼ごう」。ブログにはこう書かれている。


 攻撃はひと晩中続いた。チベット人の寮は破壊され、ドアや窓も粉々になった。チベット人学生の教室もめちゃめちゃだ。ボコボコにされて病院送りになった生徒もいた。


 アメリカに拠点を置く中国関連のニュースサイト「チャイナ・デジタル・タイムズ」は、このブログの完訳を掲載している(しかしその後、元ネタのブログは非公開になった)。チベット関連の話題を発信するブログ「インビジブル・チベット」には、攻撃の様子を撮影した写真も掲載された。

学生同士の根深い憎悪

 今回の事件は、チベット問題をめぐって中国国内で緊張が高まるなか発生した。今年に入って、中国政府の圧政に抗議するチベット仏教の僧侶らの焼身自殺が多発。死亡した計12人のうち、ほとんどが今回の事件が起きた四川省で命を絶っている。

 襲撃のきっかけが何だったのかは明らかになっていないが、双方の憎しみが根深いことははっきりと見て取れる。中国はこれまでもずっと、チベット人の分離独立運動を恐れてきた。チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世が、独立ではなく自治権を求めると、繰り返し訴えてきたにも関わらずだ。

 前述のブログは、今回の襲撃はより大きな戦いの一部に過ぎないとしながらも、漢民族の学生にとっては「重要な勝利」だったと謳い上げた。


 成都鉄道工程学校の漢民族とチベット人の学生は、激しく憎しみあっている。数百人いるチベット人学生はとんでもなく高慢だ。昨夜は漢民族の学生にとって大きな勝利となった。学校側はチベット人学生全員を拘束したし、もちろんその中には袋叩きに遭った学生もたくさんいたからだ。


 学校側はこれまで、校内の秩序を守ろうと努力しながらも失敗を繰り返してきた。襲撃事件後は、キャンパスを出入りする学生を厳しく取り締まっている。それでも事件翌日の15日には、校内のカフェテリアで再び漢民族とチベット人の学生同士のいさかいが起こった。

 ブログには、今後も衝突は続くだろうと書かれている。


 今夜も戦いで眠れない夜になりそうだ。漢民族の学生は最強だ! 制服を着て、チベット人をぶちのめせ。そして単位を稼ごう!


GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口の中」を公開した女性、命を救ったものとは?
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 5
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    日本では起こりえなかった「交渉の決裂」...言葉に宿…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中