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新興国アルゼンチンを壊す? 21世紀のエビータ
フェルナンデス大統領の再選が有力だが過熱経済の行方は不確実性を増している
「貧困層の母」としてエビータと並び称されるフェルナンデス大統領だが(中央左) Richard Rad-LatinContent/Getty Images
昨年の今頃、アルゼンチンのクリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル大統領は大きな試練に直面していた。夫で前大統領のネストル・キルチネルが、心臓発作で突然この世を去ったのだ。まだ60歳だった。フェルナンデスは一瞬にして、人生のパートナーと選挙の指南役、そして南半球で最も基盤が固いと言われた政治帝国での協力者を失った。
悲嘆に暮れ、強力なロビイストたちとの戦いに浮足立つ彼女の姿は、洗練されていて戦闘的な日頃の勇姿からは程遠く、すっかり小さく見えた。外交官たちはフェルナンデスの精神状態に疑問を呈し、政治評論家は彼女の政治生命の末路を語りだす始末。機を見るに敏なブエノスアイレスの投資資金は、いつ彼女が政権と栄光を投げ出すか賭けをし始めた。
だが、彼らは間違っていた。フェルナンデスは同情票と景気回復を追い風に、今月23日の大統領選で圧勝する勢いだ。すべての世論調査が、フェルナンデスの得票率は軽く50%を超えると予測している。歴史的な地滑り的大勝になるかもしれない。
分からないのは、フェルナンデス政権があと4年続いた場合、それがアルゼンチン経済にとって何を意味するかだ。南米第3位の同国経済は、好況と債務危機を繰り返してきた。
支持率が急上昇した理由
もっとも、フェルナンデスは以前にも焼け跡から立ち上がったことがある。2期目の立候補を辞退した夫のキルチネルに代わって大統領の座に押し上げられた07年のことだ。01年のデフォルト(債務不履行)と金融危機からは立ち直りつつあったものの、景気は過熱し、物価高に対する抗議も激しくなっていた。
フェルナンデスはガソリン価格やバス料金、食料価格を凍結して不満を抑え込んだ。08年には、民間の年金基金を国有化(「国家による略奪」と呼ばれた)。最大手の航空会社も国有化した。
さらに国内の食料不足対策として農産物輸出には高い関税を課そうとしたが、GDPの4分の1を稼ぎ出す大農場は出荷を止めるなどの妨害工作に出た。スーパーの棚が空になると、中流の国民が街頭でデモを始めた。上院に提出した農産物関税法案は、副大統領の裏切りで1票差で否決された。
他の政治指導者なら妥協していたかもしれない。だがフェルナンデスは、ますます強気で反転攻勢に出た。
インフレ率を正直に公表したがる統計局を粛正し、誰もが20〜25%だと言うインフレ率を公式には10%に抑え込んだ。強引なインフレ隠しだが、とりあえず経済が成長し消費も拡大しているので、国民も肩をすくめるだけだった。
また貧困対策に大規模な投資を行った。今年だけで、学齢期の子供を持つ貧困家庭には20億㌦の支援をした。こうした大盤振る舞いで支持率は急上昇し、アルゼンチンでは「貧困層の母」と偶像視されるエビータことエバ・ペロンと並び称されるまでになった。
だが、世界経済が変調を来し、アルゼンチンの輸出相手国が景気後退に直面するなか、そんなイメージはすぐに色あせるだろう。「経済が成長して仕事も十分あるうちは、相当の無理もできてしまう。たとえ経済がどんなにひどい状況にあってもだ」と、米コンサルティング会社ユーラシア・グループのアナリスト、ダニエル・カーナーは言う。「しかし、危機が来ればすべてはあっという間に瓦解する」
そうなれば、どんなに統計数字を飾っても助けにはならないだろう。
[2011年10月26日号掲載]