服装の悲劇に泣いたイランのなでしこ
実は、FIFAとイラン・サッカー協会がユニホームをめぐって対立するのは、今回が初めてではない。昨年のユースオリンピックでも、当初はイランの出場が阻まれた。当時は結局、イランがユニホームを修正することで出場を許された。「あのときは私たちが折れたのだから、今度は(FIFAが)妥協する番」だと、カリミは言う。
しかもFIFAは、3月のオリンピック1次予選では修正版のユニフォームで出場を認めていた。それだけに、今回の判断は大きな衝撃を与えた。「サッカーはすべての人のものだと、FIFAは言う」と、アルダランは言う。「けれど、イスラム教徒の女性にも門戸が開かれているのか疑問に感じる」
今回の事件にはサッカー以外の要因が関係しているとみる向きもある。問題の試合でマッチコミッショナー(試合を監督・運営する現場の最高責任者)を務めたバーレーン人が政治的な理由でイランをおとしめようとしたと、イラン・サッカー協会のアリ・カファシアン会長は言う。イランがバーレーンでの反体制による抗議活動を支援していることが影響したというのだ。
決着の見通しは立たず
しかしイラン代表チームの面々によれば、マッチコミッショナーは心から同情してくれたという。むしろ、ジョセフ・ブラッターFIFA会長の意向が働いたとの見方が多い。ブラッターは過去にも、女子は「もっと女性らしいユニホーム」と「もっとぴちぴちのショートパンツ」を着るべきだと、性差別的な発言をしたことがある。
FIFAはユニホーム事件を大問題と見なさない姿勢を取っているが、動揺していることは間違いない。「非常に微妙な問題だ」と、ある広報担当者は言う(この問題について発言したことを知られたくないとの理由で匿名を希望)。
今回の騒動は、女子サッカー界最大のイベントであるワールドカップ(ドイツ大会)の開幕直前に持ち上がった。カリミは試合のテレビ中継を食い入るように見た。「あの場に立って、このユニホームでもプレーに支障がないと実証したかった」
現時点で、ユニホーム論争に決着がつく見通しは立っていない。双方ともに引き下がるつもりはなさそうだ。
アルダランは深く落胆しているが、せめて明るい材料を見つけようと努めている。「女にもサッカーができるんだって、イランの男たちにも分かったことは、少なくとも朗報ね」
[2011年8月 3日号掲載]