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北朝鮮じわり浮上「金正日暗殺」の現実味
ウサマ・ビンラディン殺害やリビア空爆を経て、タブー視されなくなってきた「禁断の選択肢」
次の標的? 金正日のような国家元首の殺害は国際法で禁じられているが(昨年ソウルで行われたデモでモデルガンを向ける参加者) Truth Leem-Reuters
射撃の訓練は、標的次第で成果も変わってくるもの。韓国軍は先ごろ、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記と父親の金日成(キム・イルソン)、三男の金正恩(キム・ジョンウン)の顔写真を一部の射撃訓練で標的に使っていたことを認めた。北朝鮮は重大な冒涜行為に対して報復措置を取ると、いつものように脅し文句で警告。韓国軍は即座に写真の使用を中止した。
今回の一件は、昨年の北朝鮮による延坪島砲撃事件に韓国軍兵士が怒りを募らせて起きたのかもしれないが、同時により深い真実も浮き彫りにした。金一族の支配が続くかぎり、北朝鮮をめぐる問題がいい方向へ向かうことはない、ということだ。
メールマガジン「コリア・エコノミック・リーダー」を発行するトム・コイナーは、「北朝鮮の国外の利害関係者の間で広がるコンセンサス」があると指摘する。「悪い選択肢の中から選ぶしかなかった状態から、現実味のある選択肢はゼロという諦めの境地に変わった」
生かしておくより永久に葬るべき?
だとすれば、なぜ残された選択肢、「金一族の暗殺」について誰も語らないのか。金正日と息子の金正恩を排除できれば、食糧不足に苦しむ北朝鮮の人民だけでなく、利害関係のある近隣諸国の大半(恐らく中国も)にも多大なメリットがある。
アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディンと同じく、金正日も生きたまま権力の座からひきずり下ろすより、殺害して永久に葬るほうがプラスだという点も、誰も認めようとしない。
確かに、特定の国に縛られない存在だったビンラディンとは違って、金正日のような国家元首の暗殺は「悪」だと長年考えられてきた。そんな行為が国際法で許されるなら、敵のいる国の指導者は皆、暗殺リスクと隣り合わせで暮らさなければならなくなる。
しかしビンラディンの殺害などを経て、暗殺をタブー視する傾向は弱まりつつある。「我々は国際法を都合よく書き換えているようだ」と、ある元アメリカ人外交官は言う。「(リビアの)カダフィ大佐の政府軍司令部を狙ったNATO(北大西洋条約機構)の空爆がいい例だ」
とはいえ、下手に動いて北朝鮮を刺激するのも危険だ。韓国に亡命した元北朝鮮軍関係者の話によれば、ある会合で北朝鮮の生物化学兵器プログラムの開発者がこう語っていたという。北には韓国の全市民を消し去るだけの化学兵器があり、韓国が北のイデオロギーを受け入れない以上、いずれそれを使用する日が来る、と。
アメリカに頼らない最善のシナリオ
さらに、暗殺を恐れて居場所を転々とし、飛行機にも乗らず、常に優秀なシークレットサービスに囲まれた指導者をどう狙えばいいか、という技術的な問題もある。89年にルーマニアで革命が巻き起こり、独裁体制を築いていたチャウシェスク大統領夫妻が処刑されて以降、北朝鮮のシークレットサービスの人数は20倍の7万人に増えた。
今のところ、アメリカが北朝鮮のトップ殺害を試みるのは賢明ではなさそうだ。しかし他の誰か──理想的には北朝鮮の民衆──の手によって、金一族の支配が終焉を迎えるのは素晴らしいことだと、アメリカ政府は考えていいだろう。
金一族の支配はもはや絶対ではなく、ここ数年は陰りさえ見えつつある。最善のシナリオは、政府指導部の誰かが、金一族が消えないかぎり北朝鮮は前に進めないと気づくことだ。