日本より怖いインド流「デタラメ」原発
電力不足に苦しむインド政府は世界最大の原発建設に意欲を燃やしているが、管理体制も規制機関も問題だらけ
広がる不安 世界最大の原発建設計画が持ち上がったインド西部マハラシュトラ州ジャイタプール近郊では、建設反対を訴える看板も(4月13日) Danish Siddiqui-Reuters
インド西部マハラシュトラ州ジャイタプールの沿岸部に、世界最大の原子力発電所が建設される──その話題になると、ビジャイ・ラウトは声を荒らげ、当局とインド原子力発電公社(NPCIL)は地元の反対を無視していると興奮気味に語る。
3月、ラウトら反対運動家19人は「暴動」を起こしたとして地元警察に拘束された。「これが民主主義か? 当局者たちは住民に詳しい説明もせずに調査を始めた。06年と07年に、彼らいわく『土地接収の交渉』に来たときも、私たちが一致団結して発言することを許さなかった。各農家を呼び寄せて、農地を接収すると宣告しただけだ」
住民が反発するのには、それなりの訳がある。そして事態に不安を感じるべきなのは、地元の農家や漁師だけではない。
08年、インドとアメリカは民生用原子力協定に調印し、世界に論議を巻き起こした。当時アメリカ側が最も懸念していたのは、インドが核拡散防止条約(NPT)の批准を拒否しているにもかかわらず協定を結んだことで、ほかの国も核兵器開発に意欲を燃やすのではないかということだった。
しかし日本の福島第一原発が危機的状況にある今、真のリスクは原発そのものにあるという見方が出始めている。「(日本とは)対照的に、管理や備えに問題があるインドは、深刻度が低い緊急事態にさえ対応できない」と、インドの原子力規制委員会(AERB)のA・ゴパラクリシュナン元議長は指摘する。
インドは深刻化する電力不足に悩まされている。電力不足率は10%前後に上り、全世帯の半数近くが電気のない生活を送る。その一方で工業化と収入増加によって、電力需要は年平均10%以上の伸びを見せている。
「ニアミス」の前例と怪しい技術
しかし原子力発電は、果たして真の解決策なのか。
NPCILは昨年、ジャイタプールに建設予定の欧州加圧水型炉(EPR)6基のうち最初の2基の建設契約を、フランスの原子力大手アレバと結んだ。1基当たりの出力は165万キロワット。すべて完成すれば、世界最大の原子力発電所が誕生する。
これは壮大な計画の手始めにすぎない。インドは08年、原子力発電の目標値を「20年までに20ギガワット」から「50年までに275ギガワット」に引き上げた。原子力供給業界による民生用原子力技術や核燃料の輸入を認めるためだ。輸入解禁後は目標値を再び引き上げ、現在の発電量の100倍に相当する「50年までに455ギガワット」とした。
この拡大スピードには、恐ろしさを感じる。インドの原発で何度か「ニアミス」が起きている事実を考えれば、なおさらだ。