最新記事

新興国

「それでも原発」ベトナムが賭ける訳

福島原発事故の後でも、日本とロシアの協力を得て原発を建設する計画に変わりはない

2011年4月26日(火)14時53分
ヘレン・クラーク

停電をなくしたい ロシアとの原発建設協定に調印(昨年10月) REUTERS

 日本の原発事故を受けて原発見直しの動きが高まるなか、ベトナムは計画どおり2020年までに初の原発を稼働させる構えだ。安全性を最優先するが、国内のエネルギー需要に対応するため、引き続き原子力エネルギーを推進するという。

 外務省のウェブサイトにはこんな声明が掲載された。「原子力の安全性に関する問題はわが国の最優先課題の1つだ。とりわけ気候変動と自然災害、特に日本を襲ったばかりの地震と津波を考えれば非常に重要だ」。ベトナムは日本とロシアの協力を得て今後20年間で原発8基の建設を計画している。

 一方、多くの国は違う反応を示した。アメリカでは原子力の安全性をめぐる議論の高まりを受け、原発計画を中断する動きが表面化。ドイツも、80年以前に稼働した原発7基の運転を一時停止すると発表した。

 ベトナムでは地震こそ多くはないが、世界的な台風の常襲地帯。国連開発計画(UNDP)などによれば、ベトナムは気候変動の影響を受ける上位5〜10カ国に入る見込みだという。南部のメコンデルタなど海面が最悪1メートル上昇するとみられる場所まである。

 気候変動の影響は織り込み済みで、原子炉も最新式でEUの基準に適合したものになると、ベトナム原子力研究所のブォン・フー・タン所長は言う。日本の原発事故は「原発計画に影響しない。日本では66年に建設されたような古い原子炉が使われており、給水ポンプが旧式だ」。一方、ベトナムは加圧水型原子炉の導入を計画している。

専門家も技術者も不足

 ベトナムの場合、経済が原子力推進の追い風の1つになっている。ベトナム事情に詳しいニューサウスウェールズ大学のカール・セイヤー名誉教授によれば「ズン首相らは将来のエネルギー不足が自国の発展の大きな妨げになると考えている」。そこで将来のエネルギー需要の増大に対応するには原子力が一番だとズンは結論付けたという。

 ベトナムでは停電は日常茶飯事で、この先電力需要は高まる一方だろう。電力供給の大部分は水力発電だが、最近の全国的な水不足でダムの水位は史上最低に。「20年には現在のエネルギー資源は底を突く。代替策の1つとして原子力を考えているが、それだけに絞るつもりはない。多様なエネルギー源が理想的なので、太陽光発電や風力発電なども検討している」と、原子力研究所のタンは言う。

 ホーチミン市の多国籍企業で働くレ・フォン・トラムは、初の原発の建設予定地であるニントゥアン省の出身だ。頻繁な停電は頭にくるが、原子力には懐疑的だという。「原子力は制御可能だがリスクがあるし、唯一の選択肢でもない。個人的には太陽エネルギーや風力エネルギーのほうがいい。原発建設は地球の破滅につながる」

 原発関連の契約が結ばれたのはつい昨秋のことだが、原発推進の方針は90年代半ばに決定し、01年の第9回共産党大会で議会に承認されている。

 ベトナムは自然災害への対処には慣れている。UNDPのイアン・ウィルダースピンによれば、「政府は洪水や台風に対処してきた長年の経験があり、ほかの災害に対してもほぼ同じ仕組みが使われるだろう」。
しかし対応力となると話は別だ。国営エネルギー企業の経営体質には不満もくすぶる。まして原子力産業となれば途上国のベトナムには大きな挑戦だ。

 ロシアと日本の専門家の深い関与が不可欠だと、キャンベラ大学のセイヤーは言う。「ベトナムでは養成が間に合わず、専門家と技術者が決定的に不足している。最先端産業を管理できるのか大いに疑問だ」

GlobalPost.com特約

[2011年4月 6日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:「氷雪経済」の成功例追え、中国がサービス投資

ワールド

焦点:米中間選挙へ、民主党がキリスト教保守層にもア

ワールド

トランプ米大統領、代替関税率を10%から15%に引

ワールド

中国、米国産大豆追加購入の可能性低下も 関税違憲判
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 2
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官が掲げる「新しいスパイの戦い方」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    少女買春に加え、国家機密の横流しまで...アンドルー…
  • 5
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 10
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワートレーニング」が失速する理由
  • 4
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 7
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中