最新記事

日本経済

余震と原発が日本復活の足かせに

今年後半に上向きに転じるとの楽観論も聞かれるが、相次ぐ余震で電力供給体制と部品調達システムの復興が遅れるリスクも

2011年4月12日(火)17時32分
ガビン・ブレア

祈りの日 犠牲者へ黙祷を捧げる警察官(4月11日、南相馬市) Kim Kyung Hoon-Reuters

 マグニチュード9・0の大地震と津波と原発事故が東日本を襲ってからちょうど1カ月後の4月11日、福島県を震源とする大規模な余震が再び日本を揺さぶった。多くの被災者が避難所から自宅に戻り始めた矢先に起きた巨大な余震は、被災地の人々にさらなる心労をもたらしている。

 この余震が起きたのは、震災が日本経済に及ぼす影響についてエコノミストらが本格的な議論を始めた矢先でもあった。甚大な被害によって日本は再び不況と財政危機に陥るのか、それとも迅速な復興努力を長期的な経済成長の起爆剤にできるのだろうか──。

 大震災から1カ月という節目を迎えたこの日の午後2時46分、日本は3万人近い死者・行方不明者を悼んで1分間の黙祷を捧げた。その2時間半後、今も15万人の被災者が避難所生活を送る日本をまたも巨大な余震が襲う。復興に関する特別番組を放映していたテレビの画面には、激しく揺れる避難所の壁につかまる被災者の姿が映し出された。

 この余震によって、福島第一原子力発電所の3つの原子炉では外部からの電力供給が停止し、原子炉冷却のための注水が1時間近く止まった。その後、東京電力は外部電源が復旧し、余震の原発への影響はないと発表した。

 だが、今後も大規模な余震が続く可能性が高いことを考えれば、福島第一原発を含む国内の原発が再び不安定な状態に陥ることへの懸念は依然として大きい。4月7日夜に発生したM7・4の余震でも、東北電力女川原発で外部電源3系統のうち2系統がダウン。東通原発と青森県六ケ所村にある使用済み核燃料再処理工場でも外部電源が遮断された。

電力供給が1%減ればGDPも1%減る

 不安要因は、余震による原発の安全だけではない。部品供給システムの崩壊と巨額の復興費負担に押しつぶされそうな日本経済にとっては、不安定な電力供給も深刻な打撃になりかねない。

 ドイツ証券東京支店のシニアエコノミストである松岡幹裕と安達誠司は、電力供給が1%減ると、GDP(国内総生産)も同じく1%減になると予測。電力不足と震災の他の影響が相まって日本経済が不況に陥り、今年だけで約2%収縮するという見通しを発表した。

 一方、より楽観的なシナリオを想定するエコノミストもいる。復興需要がビジネスの追い風となり、今年末までに景気が上向きに転じるというのだ。「震災当初の打撃として、4〜6月の第一四半期のGDPは5%減が見込まれる」と、クレディ・スイスのエコノミスト、塩野剛志は指摘する。「だが、続く第2四半期には0・8%ほど回復するはずだ」

 第一生命経済研究所も似たような予測を出しているが、経済復興の道のりは平坦ではないと釘を刺す。「今年中に需要の増加が見込まれるが、問題は製造ラインの閉鎖によって多くの企業が需要に応えるための在庫をもてないことだ」と、同研究所の有働洋・経済調査部長は指摘する。「輸出業者も同じ問題をかかえている。製造業における部品供給の問題が解消されない限り、(震災後の)円安の恩恵を被ることができない」と、有働は言う。

 クレディ・スイスの塩野によれば、最も深刻な打撃を受ける可能性が高いのは自動車業界。震災と津波によって部品の供給システムが崩壊したためだ。「100%東北地方で作られていた部品もあり、供給不足は避けられない」

 4月11日のような大きな余震が今後も続き、さらに多くの原発の操業に影響が出れば、日本経済をめぐる状況が一段と悪化するのは避けられない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏の書簡、近くイランに到着=外相

ビジネス

英、決済規制当局を廃止 金融監督機構改革で企業の負

ワールド

ロシア「米からの報告待つ」、ウクライナ停戦案にコメ

ビジネス

ユーロ圏インフレ、貿易・防衛ショックで増幅リスク=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
特集:日本人が知らない 世界の考古学ニュース33
2025年3月18日号(3/11発売)

3Dマッピング、レーダー探査......新しい技術が人類の深部を見せてくれる時代が来た

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 2
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は中国、2位はメキシコ、意外な3位は?
  • 3
    白米のほうが玄米よりも健康的だった...「毒素」と「腸の不調」の原因とは?
  • 4
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 5
    スイスで「駅弁」が完売! 欧州で日常になった日本食、…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 8
    トランプ=マスク独裁は許さない── 米政界左派の重鎮…
  • 9
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 10
    企業も働き手も幸せに...「期待以上のマッチング」を…
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦している市場」とは
  • 4
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 5
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 6
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 7
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 10
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中