最新記事

東北関東大震災

原発から漏れ出した放射性物質とは

福島第一原子力発電所での爆発で懸念される放射線被曝の仕組みと対処法

2011年3月14日(月)16時01分
ケーティ・ワルドマン

見えない恐怖 漏洩した放射性物質は健康被害を及ぼすほどの量ではないというが(3月13日、福島第二原発付近の被曝検査の様子) Kim Kyung-Hoon-Reuters

 東北関東大震災で損傷した東京電力福島第一原子力発電所1号機で3月12日、水素爆発が起き、原子炉建屋の外壁が吹き飛んだ。日本政府は、半径20キロ圏内の住民に避難を指示。炉心全体が解け落ちるメルトダウンが起きる可能性は低いようだが、原子炉格納容器の損傷を防ぐため、容器から放射性物質を含む蒸気が放出され、周辺に放射能が漏れ出しているという。

 この「放射性物質を含む蒸気」とは、いったい何なのか。

 問題の蒸気には、あらゆる種類の放射性粒子が含まれており、なかには多量に浴びると命に関わるものもある。

 危険なのは「放射性同位体」と呼ばれるもの。同じ原子番号をもつ元素の原子でも、原子核内の中性子の数(質量数)が通常と異なる「同位体」が複数存在することがある。原発内でウラン燃料が核分裂する際に生まれるそうした不安定な同位体が、時間が経つにつれて放射性崩壊を引き起こし、放射能を放出するのだ(ウランが核分裂すると、少し軽い核分裂生成物が発生し、軽くなった分がエネルギーとして放出される)。

ヨード剤服用はタイミングが大事

 福島第一原発で漏出した蒸気に多く含まれるのは、ヨウ素131、セシウム137、キセノン133、キセノン135、クリプトン85などの放射性同位体だ(元素名の後の数字が特定の同位体を示す)。

 この中で最も厄介なのがヨウ素131。被曝すると甲状腺に吸収され、甲状腺癌や白血病の原因となる。クリプトン85やキセノン133の気体は骨や組織には影響しないが、非常に不安定な同位体のため、大量の放射線を放出し、人体システムに悪影響を及ぼす可能性がある。

 ただし、人体は普段から宇宙線やテレビ視聴などさまざまな形で一定量の放射能を浴びており、原子力発電所から漏洩した放射能も、よほど大量でないかぎり健康被害を引き起こすことはない。

 福島第一原発1号機の中央制御室では、放射線量が通常の1000倍に達したが、日本政府は施設外への漏洩量は危険なレベルではないと主張している。それでも、周辺住民はボトル入りの飲料水を飲み、外出を控え、鼻と口をタオルなどで塞ぐよう指示されている。

 ヨウ素131の健康被害を防ぐため、ヨード剤(ヨウ素剤)を配布することも発表された。放射性のないヨウ素を摂取して甲状腺を飽和状態にすることで、危険な放射性ヨウ素が吸収されるのを防ぐ仕組みだ。ただし効果があるのは、被曝前に摂取した場合のみだという。

© 2011 WashingtonPost.Newsweek Interactive Co. LLC (Distributed by The New York Times Syndicate)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ウクライナ住民の50%超が不公平な和平を懸念=世論

ワールド

北朝鮮、日米のミサイル共同生産合意を批判 「安保リ

ビジネス

相互関税「即時発効」と米政権、トランプ氏が2日発表

ビジネス

EQT、日本の不動産部門責任者にKKR幹部を任命
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中