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マイクロファイナンス貧者の味方を襲うバッシングの黒幕
グラミン銀行は貧困層の血を吸って儲けている──ユヌス総裁は汚れた政治の思惑をかわせるか
ムハマド・ユヌスといえば、貧しい人々に無担保で小口融資を提供するマイクロファイナンスをつくり出した人物。自ら総裁を務めるグラミン銀行と共に06年のノーベル平和賞を受賞した時代の寵児だが、そのユヌスが最近いわれなきバッシングを受けている。
バングラデシュ政府は先月、グラミン銀行の金融取引や関連企業との関係を調べる調査委員会の設置を発表した。きっかけになったのは、ノルウェーの国営テレビが昨年11月に放送したドキュメンタリー番組。グラミン銀行に送られたノルウェーからの寄付金の使い道が不透明だと告発する内容だった。
グラミン銀行は「まったくのでっち上げで、根拠のない報道」と反論。ノルウェー政府も12月、「寄付金が目的外に使用されたり、着服されたりした事実はない」と結論付けた。
ではなぜ、バングラデシュ政府が調査に乗り出すのか? 「政府はやみくもにマイクロファイナンスを標的にしている」と、業界団体の会長モシャロフ・ホサインは米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の取材に答えている。政府は昨年11月、マイクロファイナンス事業者に貸出金利の上限を年率27%とするよう通達した。実質的に事業者は、銀行から借り入れたときの金利とほぼ同じ金利で利用者に貸し出さなければならず、厳しい経営を迫られている。
ユヌスが直面している困難はこれだけではない。07年にAFP通信とのインタビューで、バングラデシュの政治家は「金だけが目的で何のイデオロギーもない」と発言したことで、左派政党の幹部から名誉毀損で訴えられている。またグラミン銀行が経営に関与するヨーグルトメーカーが「汚染」された商品を販売したとされる問題で先月、裁判への出廷を命じられた。
その背景にはユヌスの人気の高さがあると専門家はみている。バングラデシュのハシナ首相は昨年12月、マイクロファイナンスが「貧困層の血を吸って(利益を上げて)いる」と激しい口調で非難した。08年の総選挙で首相に返り咲いた中道左派・アワミ連盟党のハシナは、対抗勢力の右派がユヌスを担ぎ出すことを恐れてイメージダウンを図っているという。83年のグラミン銀行創設以来、貧困層に尽くしてきたユヌスが批判されていることに、支持者からは戸惑いの声が出ている。「弱者の味方」は汚れた政治にのみ込まれるのだろうか。
<追記>ユヌスは3月2日、定年年齢の60歳を超えていることを理由にグラミン銀行の総裁を解任され、裁判で争っている。
[2011年2月16日号掲載]