最新記事

リビア

「飛行禁止区域」で虐殺を止められるか

デモ隊に対するカダフィの爆撃を止めるため、過去にボスニアでも使われた飛行禁止区域の検討が始まったが

2011年3月2日(水)17時49分
ジョシュア・キーティング

空の限界 米軍が制空権を握っても、地上の部隊には手も足も出ない Bob Strong-Reuters

 ヒラリー・クリントン米国務長官は2月28日、リビア上空にアメリカとその同盟国が飛行禁止区域を設けることを計画中だと明らかにした。既に内戦状態さながらのリビアで、最高指導者ムアマル・カダフィ大佐による反体制勢力の武力鎮圧を防ぐためだ。

 このところリビアでは、空軍がデモ隊に対して上空から無差別爆撃を加え、対するデモ隊は28日、反カダフィ勢力のラジオ局を襲撃しようとしていた飛行機を撃ち落としたとも伝えられている。そんななか、先週末にはアラブ人による約200の団体が、国連に対して飛行禁止区域の設定を求める文書に署名した。

 では、この飛行禁止区域はどのように設定され、それにはどんな効果が期待できるのか。

 飛行禁止区域の設定には主に2つのケースが想定される。1つは、ある2国が戦争状態にあるとき、一方の国の軍隊が相手国の軍隊に対して設けるもの。相手国の航空機が飛行禁止区域に侵入した場合には迎撃するという警告に等しい。

 現在のリビア情勢に当てはまりそうなのはもう1つのケースだ。ある国が内戦や人道危機に瀕しているとき、それを食い止めるために圧倒的な制空力をもつ他国(または国際機関)が危機国の上空に飛行禁止区域を設けるというもの。90年代のボスニア紛争や、湾岸戦争後にイラク国内で起きた少数民族弾圧を阻止するために適用された。

人道的使命と政治の妥協の産物

 飛行禁止区域というのは、国際社会がある国の人道危機を防ごうとするとき、軍事介入が政治的に好ましくない場合の妥協策であることが多い。

 飛行禁止区域の正当性は、国連憲章第42条に明文化されている。これによると、国際平和の脅威に非軍事的手段では対応しきれない場合には、「国連加盟国の空軍、海軍、または陸軍による(港や道路の)封鎖などその他の軍事作戦を」用いることができる。この文言自体はかなり曖昧なので、実際にどのような条件で実施するかについては、飛行禁止区域の設置を許可する国連決議の中に盛り込まれる。

 例えばボスニア紛争のケースでは、93年の国連安保理決議第816号のもと、「ボスニア・ヘルツェゴビナ上空のあらゆる固定翼機と回転翼機」に対する「飛行阻止作戦」が許可された。飛行禁止区域の監視や、例外として人道支援目的の飛行などの任務は、国連部隊が担った。

 ボスニア・ヘルツェゴビナ上空の飛行阻止作戦は、その前に行われていた「飛行監視作戦」を引き継ぐ形で行われた。飛行監視作戦では軍用機のみが飛行禁止とされ、国連軍の権限は飛行禁止区域に侵入した違反行為の記録だけに限られていた。飛行を阻止するために国連軍が軍事行動を起こすことはできなかった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

伊藤忠、西松建設の筆頭株主に 株式買い増しで

ビジネス

英消費者信頼感、11月は3カ月ぶり高水準 消費意欲

ワールド

トランプ氏、米学校選択制を拡大へ 私学奨学金への税

ワールド

ブラジル前大統領らにクーデター計画容疑、連邦警察が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中