「打倒カダフィ」血のシナリオ
これまでのエジプトやチュニジアと違い、リビアの反政府デモは大量の死者を出す危険がある
往生際は カダフィは、エジプトのムバラクのようには引き下がらないかもしれない Osman Orsal-Reuters
最高指導者ムアマル・カダフィ大佐が権力の座について40年以上。大リビア・アラブ社会主義人民ジャマーヒリーヤ国(リビア)の独裁体制は終わりを迎えるのか。リビアからの報道は断片的でときに矛盾するものだが、どれもカダフィ体制が危機的状況にあることを示している。
リビアで2番目に大きな都市ベンガジはデモ隊の手に落ち、彼らは嬉々として反体制のスローガンを叫んでいる。首都トリポリは混乱状況にあり、建物は放火され、警官は姿を消した。かつて政権に忠実だった部族の大物や政界のエリートは反体制派に回っており、リビア軍の一部も離反し始めた。
しかし終わりはまだ見えない。カダフィの息子で後継者とされるサイフ・アルイスラム・カダフィは2月20日の演説で「ここはチュニジアでもエジプトでもない」と語り、「最後の瞬間まで、銃弾が最後の一発になるまで戦う」と警告した。これまでは欧米に向けて人権や市民社会について語り、「リビア政府のまともな面」を見せるのがサイフの役割だった。その好人物が地獄の到来を予告するということは、政府がデモ鎮圧に本気だということだろう。
実際、リビアはすでに内戦に陥っているように見える。政府はデモ参加者を無差別攻撃し、数百人が死亡。政府は報道規制を行い、携帯電話やインターネットへのアクセスを制限しているため、正確な死亡者数ははっきりしない。だが、政府が簡単に諦めるつもりがないことだけは明らかだ。
団結意識の低いリビア国民だが
肝心なのは、反政府の立場を明らかにしていない部族や軍の大物の忠誠を、カダフィ家が維持できるかどうかだ。報じられるところでは、ムスタファ・アブドゥル・ジャリル法相は「過剰な暴力が行われている」として政権を非難した。さらに、様々な駐外国大使がカダフィを見捨て始めたようだ。こうした人々は流血の事態に愕然としたのかもしれない。しかし強い倫理観の持ち主がリビアで出世できたはずはないから、重要な地位にある彼らが造反するのは「カダフィ体制もそう長くない」とみているからだろう。自己の利益を考えて、沈みつつある船から脱出しているのだ。
カダフィは国民の対立をあおりながら支配するという「分割統治」を行ってきた。そのためリビア人は政治的に連携することに慣れていない。エジプトやチュニジアの場合、軍は独立組織としてのプライドを持っていたし、政権への憎しみが多様な勢力を結びつけた。一方のリビア軍は政権との結びつきが強い。しかもリビア国民は歴史的に団結意識が低いため、離れた都市にいる人々が反政府運動で協力しにくい。政府の激しい暴力が国際的なメディアの目にさらされていないことも問題だ。
今の反政府勢力に必要なのは結束することだ。デモ隊は数で勝っているが、カダフィ支持者には銃がある。軍からの離脱者が増えれば勢力バランスは変わるだろうが、中東では銃を持った少数派が自分たちの考え方を多くの人々に押し付けるケースがあまりに多い。