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エジプト危機に震え上がるイスラエル

アラブ世界との橋渡し役であるエジプトが政権崩壊すれば、中東でユダヤ国家の孤立が深まる

2011年2月1日(火)18時17分
ベン・リンフィールド

崖っぷち イスラエルのネタニヤフ首相にとってエジプトは頼れる味方だったが Ammar Awad-Reuters

 エジプトのホスニ・ムバラク大統領の退陣を求める抗議デモの様子を、イスラエル人は固唾をのんで見守っている。ユダヤ国家であるイスラエルにとって平和条約を交わしたエジプトは、アラブ世界における頼れる盟友と言っていい。

 ムバラク政権の崩壊は「イスラエル、ヨルダン、サウジアラビア、湾岸諸国、ヨーロッパやアメリカにとって大惨事になる」と、イスラエルの元駐エジプト大使エリ・シャケドは言う。「我々の友人の中で、この最悪のシナリオで得をする者などいない」

 イスラエル政府が事態を深刻に考えていることは、デモについてのコメントを控えるよう閣僚らに指示していたことからもうかがえる。1月31日になって初めて、ベンヤミン・ネタニヤフ首相が「イスラム主義組織による支配への懸念」を示した。

 イスラエルにとってムバラクはアラブ世界における穏健派の要となる存在で、アラブ諸国への橋渡し役だった。「79年に平和条約を結んでからずっとエジプトは戦略的な同盟国だ」と、イスラエル当局者は語る。「我々には共有の利益が多い。隣国同士であり、同じ中東地域にあって、同じ課題に直面している」

 エジプトとイスラエルは79年以来、どんな戦争や危機が起きても平和条約を遵守してきた。両国はともに、パレスチナ自治区ガザを実効支配しているイスラム過激派ハマスや、イランが支援するレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラを憎悪している。中東におけるイランの影響力拡大も懸念している。

「ムバラク政権の基盤は崩れていないと、我々は考えている。政権が倒されることはないだろう。それでも今後の展開には不確かな要素が多い」と、前述のイスラエル当局者は言う。

アメリカの中東政策は見当違いだった

 有識者らが心配するのは、事実上の最大野党であるイスラム原理主義勢力「ムスリム同砲団」など、平和条約に反対する勢力がムバラクの後を継ぐことだ。「反体制派が政権に就いたら最悪だ」と、シャケドは言う。「彼らは真っ先にイスラエルとの関係を断つだろう。労働組合や学生、イスラム過激派からの支持を拡大し、反政府勢力を団結させるためだ」

 それでも、ムバラク政権の終わりが必ずしも平和条約の終わりを意味する訳ではないと、イスラエル当局者らは言う。「今のところありそうにもないが、ムバラク政権が倒れた場合でも、政権に就くのがイスラム過激派だとは限らない。アメリカの協力やイスラエルとの平和条約が、エジプトにとって戦略的価値があると理解している勢力になるかもしれない」

 多くのイスラエル人は、エジプト国民がムバラクに反旗を翻すことはないだろうと思っていた。ネタニヤフの元側近であるザルマン・ショバルによれば「エジプト国民は総じて、暴力行為を働こうとは思わない平和的な人々だ。それでもアメリカは不安に思っているはずだ。中東に対する自分たちの態度や理解が全体的に間違っていたのではないか、と」

 中でも、中東地域の不安定さを解決するにはパレスチナ問題が鍵だと信じ、そこに労力を注ぎ過ぎたことがアメリカの間違いだったとショバルは指摘する。「パレスチナとイスラエルの問題は、中東安定化要因の1つでさえないことが改めて証明された。チュニジアやエジプト、アルジェリアで起きていることは中東和平とは何の関係もない」

 今回の騒乱はイスラエルにとって盟友エジプトを失う危険性だけでなく、アメリカ外交の過ちという二重の不安をかき立てるものになった。

GlobalPost.com 特約)

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