最新記事

PR

寒過ぎた中国の対米プロパガンダ

胡錦濤の訪米に合わせて一大PRキャンペーンを張ったものの、アメリカ人には意味不明で辟易とするばかり

2011年1月20日(木)18時04分
アイザック・ストーン・フィッシュ(北京)

独りよがり これが「中国の美」、と説明抜きで言われても YOUTUBE

 どうやら中国は、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席の訪米をアメリカに新たな「攻撃」を仕掛けるチャンスと考えたらしい。今週になってニューヨークのタイムズスクエアの大画面やアメリカのテレビチャンネルで、中国の魅力を宣伝するCMが次々と流された。狙いは、中国に対するアメリカ国民の「不十分な理解」を正すことらしい。

 しかし、この一大キャンペーンはいまだ期待通りの成果を上げられていない。準備に膨大な時間と金を投じたにもかかわらず、このCMは中国の魅力を知らしめるどころか、人々を混乱させる一方だ。

 原因の1つは、目標が大きすぎて中身が追いついていないこと。たった60秒で「中国とは何か」を語ろうとしているようだが、人口14億人、56民族と5000年の歴史を抱える国の全貌を詰め込もうなどと無茶な話だ。「あんな壮大な広告を作る必要はないと思う」と、清華大学(北京)で中米関係研究センター長を務める孫哲(ソン・チョー)は言う。より実現可能な例として、孫はシンガポールやマレーシアの政府による航空や観光に特化した宣伝を挙げる。

 中国の国営メディアは、タイムズスクエアに広告が出た「栄誉」を大々的に報じているが、中国市民が実際に誇らしく感じているかは怪しいところ。「一般的な中国人はこうした宣伝に関心がない」と、北京理工大学の胡星斗(フー・シントウ)教授(経済学)は言う。「プロパガンダや宣伝活動は、現実的で具体的な何かをするのとは違う。もし中国政府が国内で人権を保障すると言ったら、それこそ最高の宣伝になる」


 

ホットドッグ屋がかわいそう

 アメリカ国民にとっても、今回のCMは「中国語をぜひとも学びたい」と思わせるようなものとは程遠い。CMに登場するのは、ロケット工学者の孫家棟(スン・チアトン)、ポップ歌手の劉歓(リュウ・ホアン)、中国中央電視台(CCTV)キャスターの敬一丹(チン・イータン)。彼らを知っているアメリカ人がどれほどいるだろうか。

 CMでは彼らについての説明は一切なく、「フレンドリーで何かの成功を収めた中国人」ということしか分からない。画面には「中国との魅力的な対話」という文字が躍り、中国の宇宙飛行士たちが映し出された後、大勢の中国人の顔が「中国」という文字に吸い込まれていく。締めくくりの言葉は「中国の友情」だ。

 クオリティーはさておき、60秒間も笑顔のオンパレードを見続けるというのは、驚くほどつまらない。しかし、この映像はバレンタインデーまでのおよそ1カ月間、タイムズスクエアで約8400回流される見通しだ。

 ある中国人はツイッターでこうつぶやいた──タイムズスクエアのホットドッグ屋台の店員は、しまいに「中国が憎くてたまらなくなるだろう」と。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中