最新記事

ノーベル賞

中国の平和賞批判はナチスがお手本?

2010年12月13日(月)18時37分
デービッド・ケース

ナチスが新設したドイツ版ノーベル賞

 100年以上の歴史をもつノーベル賞が、時代に合わせて変化するのは自然なことだ。ノーベル委員会のトルビョルン・ヤーグラン委員長は、今年選ばれた劉をソ連時代の受賞者サハロフになぞらえた。「ソ連の指導層が(サハロフの主張に)耳を傾けていれば、ソ連の歴史はまったく違っていたかもしれない。中国も今、同じような分岐点にある。人権に配慮した社会市場経済を発展させられれば、世界に非常に前向きなインパクトを与えるだろう。もしできなければ、世界が尻拭いをする羽目になる」

 それでも、中国当局は劉への平和賞授与は「茶番」であり、中国の奇跡的な経済成長を頓挫させる陰謀だという主張を続けている。中国側の言い分を支持する動きもあり、18カ国が授賞式への出席を辞退(中国のためだと明言した国は少ないが)。国連人権高等弁務官のナバネセム・ピレーまで出席を取りやめた。

 その一方で、中国はノーベル賞授賞式前日の12月9日、独自に創設した「孔子平和賞」を発表するという対抗策に出た。初代の受賞者は台湾の連戦(リエン・チャン)元副総統だ(ただし連はスポークスマンを通じて、受賞の話は聞いておらず、受け取る予定もないとコメントした)。

 中国の支持派いわく、不適切な人物がノーベル賞に輝くのは珍しい話ではない。73年には、戦犯の疑いもあるヘンリー・キッシンジャー米国務長官が平和賞を受賞。一方で、インドの非暴力運動の指導者マハトマ・ガンジーや、中国の経済改革の立役者である鄧小平(彼が推進した市場経済政策によって6億人が貧困から救われた)は、ノーベル賞に縁がなかった。

 それにしても、孔子平和賞を新設した中国をみると、再び「例の国」を思い出さずにはいられない。1936年にオシエツキーの平和賞受賞が発表されると、ナチス政権はノルウェー政府に公式に抗議した。その翌年、ヒトラーは今後ドイツ人はノーベル賞を受けないと発表。代わりに、科学と芸術分野で「ドイツ版ノーベル賞」を立ち上げた。 

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、中東歴訪終了後「ワシントンに戻る

ビジネス

アングル:日銀、26年4月以降の買入減額ペース模索

ビジネス

ECB、利下げ終了が近い可能性 貿易戦争がリスク=

ワールド

訂正-対シリア制裁、EUの追加解除提案の全容判明 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新研究が示す運動との相乗効果
  • 3
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 4
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 5
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 6
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワ…
  • 7
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 8
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 9
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 10
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中